祖母が語った不思議な話・その玖拾(90)「怖い本」

私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

小学3年生の春、日曜日の午後にA町の書店で悩んでいた。
一緒に来た祖母からどれでも好きな本を3冊買ってあげると言われたからだ。
1冊は「原色怪獣怪人大百科」、2冊目は「宇宙船ビーグル号の航海」…ここまではすんなり決まったのに最後が選べない。
もう一度書架を端から見直そうとした瞬間、店主が座っている近くのテーブルに一冊の本が載っているのに気がついた。

「私は幽霊を見た」
それがタイトルだった。

家に戻って一番気になっていたその本を早速読んだ。
幽霊に関する実話を集めたもので、その舞台が日本であるだけに怖さが真実味を伴って伝わってくる。
表紙や挿絵も陰鬱(いんうつ)だったが、その中にどんぐりまなこで首に穴があいている上半身を描いた異様な一枚があった。
「大高博士をおそったほんものの亡霊」という青森県の医師本人が描いたもので、見た瞬間にその絵にとりつかれるような恐ろしさがあった。
怖い話が大好きだったのでとても満足して読み終わり、本棚の目立つところに立てると友達Kの家へ遊びに出かけた。

「その幽霊の本、見たいなあ!」
買ってもらった本の話をするとKはとても興味を示したが、日も暮れてきたので次に会うときに持ってくると約束し別れた。

家に帰ると中から泣き声がする。
見ると幼い妹が母にしがみついて泣きじゃくっている。
そばにはあの幽霊の本が転がっていた。
「本棚にあったのを見ちゃったらしく、怖い怖いとずっと泣いてるのよ…」
困り顔の母がそう言った。

「大きな目のゆうれいがこわいこわい」と妹は泣きやまない。
目の届かないところに隠したが、妹はそれから毎晩夜中に悪夢を見て泣き叫ぶようになった。
困った両親は小児科に相談した。
医師の答はこうだった。
「その本が引き金になっているから、目の前で処分するのがいいでしょう」

こうなると否も応もない 。
母は妹の目の前で例の絵のページを破り鋏(はさみ)で細かく切り裂いたのち、本もガムテープでぐるぐる巻きにし、他の紙ごみと一緒にくくりゴミ回収に出してしまった。
その夜から妹が悪夢に襲われることはなくなった。

これがその本です

……………………………………………………………………

それから30年後、あの本がネットで話題になっているのを知った。
「あのおぞましい絵は忘れられない」
「怖いのになぜか何度も見てしまった」
「いまだに思い出すと悪夢を見る」
「トラウマになっている」
驚くほど多くの人の記憶に強烈な印象を刻んでいた。

実家に戻ったときにこの話をし、「おばあちゃん、あの本もう一度読みたいね」と言うと
祖母は無言で立ち上がり、奥の部屋から紙袋を持ってきた。
「開けてみて」
中には一冊の本が入っていた。
「私は幽霊を見た」だった。

「あのとき確かにお母さんが処分したはずなのに?」
「私は用事があって立ち合わなかったから…あんたが子どもの頃使っていた机の中から出てきたんだよ」ページも破れておらず、見返しに書いた名前も残っている。
産毛が逆立った。

この本は今も手元にある。

※件の絵を載せようかとも思いましたが、何かあるといけないので思いとどまりました。気になる方はネットで調べてみてください。

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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