私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学2年生の夏、祖母の里帰りについて行った。
海も山も近く自然も多い、美しいところだった。
同じ学年のはとこのK太とひとしきり遊び、水瓜(すいか)を食べていると
「久しぶりなので村を回ってみるよ。一緒に行くかい?」
と祖母が言うのでK太と一緒に出かけた。
「ここにはヒキの大きいのが住んどる。あっちの森はクワガタがようけ獲れるぞ」
「この神さんは子どもの病気を治してくれるんじゃが…あんまり頭は良うしてはくれんのう」
先回りして話すK太の説明を祖母はにこにこしながら聞いていた。
陽も暮れかかった頃、村外れの広い窪地にさしかかった。
「病田じゃ! 近寄ったらいかん」と言いながらK太が手を引いた。
「うん。そろそろ帰ろうかねえ」と祖母も言うので家路に着いた。
「病田って何?」
その晩、床についてからも気になって眠れず、隣りで寝ている祖母に聞いた。
「それを売り買いしたり、作物を作ったりすると病人や死人が出ると言われている縁起の悪い田の事だよ」
「それ本当?」
「私が知ってるあそこの土地の話をしてあげよう」
祖母が子どもの頃もあの田は誰も使っていなかったが、ある日よその村から家族が越して来た。
皆は「不吉な土地だから止めておけ」と口々に言ったが、相手にしなかった。
そこを耕し翌年には稲を植えたが、案の定立ち腐れて育たない。
心配で眠れない主が夜中に見に行くと田の向こうに人が立っている。
こんな時間に誰だろうと思っていたらどんどん近づいて来る。
これまで起こった凶事を聞かされていた主は怖くなり、必死で逃げたが暗い中を走ったので水路に落ちた。
追いついた人影が手を伸ばしてきたので、もう駄目だと目をつぶった瞬間声が聞こえた。
「あんた! 手を!」
それは聞き慣れた妻の声だった。
家に入り服を着替えた主が「なぜあんな所にいたのか」と問うと妻は答えた。
「戸が開く音に目が覚めて、あんたが出て行くのが見えたんだ。外に出てみると田んぼに向かって行くあんたと並んで小さな女の子が歩いている。これは尋常じゃないと思ったから後を追ったんだよ」
主は真っ青になった。
「この出来事を皆に話してすぐに、よそへ引っ越して行ったよ。それから半世紀以上あそこはあのままなんだね」
語り終えた祖母はそれから間もなく寝息を立て始めた。
私は朝方まで眠れなかった。