今年創立70周年を迎えた「九州交響楽団」は63人の楽団員が所属し、福岡に拠点を置くプロ・オーケストラです。狭き門といわれる楽団に所属するのはどんな人たちで、どんな活動をしているの? 意外と知らない「九州交響楽団」の謎に迫ります…!
【ナゾ1】設立のきっかけは?
初代常任指揮者で、初代音楽監督の石丸寛が設立に関わっています。戦後復員した石丸が「福岡にオーケストラをつくる!」と決意。奔走しながら復興期の1953年に第1回定期演奏会が開催されたのが始まりです。73年にはプロ化し専属の楽団員が入団。九響の運営はチケット収入のほか、福岡県と福岡市の補助金、法人と個人の後援会会員の支援などで成り立っています。
87年には首席客演指揮者だった小泉和裕の働きかけで専用の練習場「末永文化センター」が完成。小泉が設計図を持って当時の末永直行常務理事に直訴したそうです。その後、末永さんの私財でホールが建設されることになりました。
【ナゾ2】どんな人が演奏しているの?
63人の楽団員それぞれが個性豊かで魅力的です。チェロの鈴木淳はコロナ禍にSNSで演奏動画を紹介する傍ら、お昼ごはんの内容をアップしていたら「トンカツ師匠」と慕われるように。ファンとの交流も楽しんでいます。
楽器を始めたきっかけもさまざまです。バス・トロンボーンの古荘恭英は、本当はティンパニがしたくて入った中学の吹奏楽部で、たまたま奏者枠が空いていたトロンボーンに出合い「いつしか仕事になっちゃいました」と縁の面白さを感じています。
ほかにも、約30カ国語を話すことができる楽団員や学生時代スケートでオリンピックの強化選手だった楽団員、テレビ番組「NHKのど自慢」で鐘を担当した楽団員もいますよ。
【ナゾ3】楽団員はどこでどのくらい練習するの?
練習もプロの仕事の一部です。練習可能な環境がある場合は自宅で、大きな音の出る金管、打楽器奏者ら自宅で音が出せない人は末永文化センターの練習室などで練習しています。過去に演奏したことがあるかないかにもよりますが、初めて演奏する大作などは前年から少しずつ準備することもあります。
全体リハーサルまでには個人として仕上がった状態で臨まなければいけません。アマチュアの場合約数カ月かけることもありますがプロがリハーサルにかけるのは主に開催日直前の1~3日間です。そして演奏会当日はゲネプロという最後の通し練習後、本番を迎えます。
【ナゾ4】演奏はどこで聴くことができる?
年間33回を数える主催演奏会は主にアクロス福岡シンフォニーホールやFFGホールで実施しています。それ以外にも北九州市など県内の公共ホールや県外でも演奏をしていて全部で約140~150公演あります。定期演奏会前には聴きどころを解説する参加無料の「目からウロコ⁉の九響おんがくアカデミー」(会場:アクロス福岡円形ホール)も開催していますよ。楽団員の室内楽演奏や質問コーナーもあって、九響を身近に感じることができます。
【ナゾ5】おすすめの公演を教えて!
直近では、2023年6月23日(金)にアクロス福岡シンフォニーホールで開催する定期演奏会「饒舌(じょうぜつ)なるアメリカン・クラシック」です。今季最初のインターネットライブ配信もされます。
小泉が音楽監督として最後の登壇となる来年3月15日(金)の第419回定期演奏会(アクロス福岡シンフォニーホール)は特に楽団員が目いっぱいの思いをもって演奏すると思うので見逃せません! 3月20日(水)には同じプログラムで東京公演(サントリーホール)もあります。
【ナゾ6】演奏会に行くときの心構え、演奏をさらに楽しく聞くためのコツはありますか。
演奏会は、難しく考えなくても大丈夫です。ちょっとした好奇心を持って聴いてもらえると良いと思います。アクロス福岡シンフォニーホールだと1階と2階で聞こえてくる音が変わってきます。何度かトライして違いを感じてみるのもいいかもしれません。(鈴木さん)
定期演奏会は芸術性や演奏の難易度が高いプログラムが組まれることが多いですが、演目もいろいろなカラーがあります。名曲をはじめ中には、「スター・ウォーズ」などのアメリカの映画音楽、ポップスを取り上げることもあるので、興味のある公演を選んでみてください。(古荘さん)
【ナゾ7】音楽監督の小泉和裕さんはどんな人?
真剣な表情の場面がほとんどの監督ですが、たまにお茶目な一面もあるんです。まれにですが小さい声でダジャレのようなことを言われるので、逃さず笑うようにしています。誰が笑ったか見ているんですって(笑)。ドイツ音楽に精通されていて、その深い造詣を僕らにフィードバックしてくれています。(古荘さん)
ちょっと言葉が強いときがあって誤解されがちかもしれませんが、ものすごく責任感のある方です。練習場の末永文化センターは小泉監督が作ってくれたようなもの。小泉監督の情熱が人を動かしたんです。リハーサルでも「一つ一つの仕事で妥協はしない」という気迫が感じられます。(鈴木さん)
もっと教えて! 楽団員、スタッフに聞いた
チェロ奏者 鈴木淳さん
―楽器を始めたきっかけは?
最初はピアノを習っていました。ピアノの先生のご主人が群馬交響楽団の設立に関わった人で、その人にチェロをすすめられ、小学校5年生のときに始めました。
—個人練習はどのくらいしますか。
私はワーカーホリックでして。1日数時間、常に自宅で練習しています。もちろん、休む日もたまにはありますよ。練習でも本番でもいい音が出て、いい演奏ができたときはうれしくなります。
―SNS発信(ツイッター)で、ファンに親しまれているそうですね。
いつの間にか見てくれる人が増えちゃって。ツイッターでの発信(昼ごはんの紹介など)は息抜きですね。今年の7月に福岡市内でライブをやってみようと思っています。オフ会のような感じです。コロナ禍に音楽動画をアップしていたときから聞いてくださっていたファンの皆さんが東京や熊本などから駆けつけてくれることになっています。
―どこの国の音楽が好きですか?
ドイツに留学していたことも影響して、ドイツ音楽が好きです。
―今後の目標を教えてください。
とにかく元気で、死ぬまで演奏を続けられたらいいなと思っています。
バス・トロンボーン奏者 古荘恭英さん
—九響を選んだ理由は?
以前はフリーという形で東京を中心にさまざまなオーケストラで仕事をしていました。オーディションは欠員が出ないと開催されません。いろんなオーケストラを受験しましたが、なかなか“金メダル”が取れませんでした。1人しか採用されないのに僕は“銀メダル”が多くて。だいぶ年を重ねたころ、九響のオーディションがあったので、最後のつもりで受けてみたんです。まさかと思いましたが、拾ってもらうことができました。
—九響の良さはどんなところに?
最初は「ものすごくウィンナ・ワルツが上手なオケだな」という印象を受けました。熱くて、パッションがあると思います。
—公演中にハプニングはあるのですか。
弦楽器の弦が切れてしまうことは結構あると思います。金管楽器のトロンボーンでいうと、水を出すレバーのはんだが外れてしまった方がいました(九響以外の別のオケで)。その状態では息がもれて演奏できません。演奏中は外に出られないし、替えのスライド(パーツ)があるわけでもないですし。その方は、楽器を置いて公演が終わるまでじっとしていました…。鐘をたたきすぎて、つるしているひもが切れてしまった場面も見たことがあります。いろいろとありますね。
―リフレッシュ方法を教えてください。
車の運転が好きなので、ドライブに出かけます。福岡はちょっと車で走ると美しい自然に出合えます。三瀬峠、唐津の海沿いや鏡山あたりもきれいですね。ほかには、おいしいものを食べて飲んでリフレッシュしています。
—お客さんにメッセージを。
お客さまに聴いていただいてこそオーケストラは一定の水準を保っていけると思っています。コロナ禍が少し落ち着いたとはいえ、大変だと思いますが、ぜひホールに足を運んで生の演奏を聴いていただきたいです。
ステージマネージャー 木口龍之介さん
—「ステージマネージャー」は演奏する環境を整える仕事だと聞きました。
それぞれの公演ごと、曲ごとの“設計図”を作ります。演奏家が好む譜面台や椅子の高さ、角度などを把握して極力、再現できるようにしています。
—緻密な作業ですね。
実は物の配置は第一段階。その先の方が大切なんです。例えば、本番前舞台袖の指揮者の表情を見て、距離感を決めます。「離れて」オーラだったり、「不安だから近くにいて」の雰囲気だったり。背中でその空気を感じるんです。
演奏前は緊張しますよね。特に、指揮者、ソリスト、コンサートマスターなどは1人しかいないので。本番前に、ソリストから「緊張を飛ばしてほしい」と、背中をたたいて喝を入れることもあります。そういう“心のケア”を大事にしたいです。みなさんを気持ちよく舞台に送り出すところも、大切な仕事だと思っています。
広報 リシェツキ多幸さん
九州交響楽団の活動情報は、ホームページ、ツイッターなどSNSのほか、公演会場などで配布している「月刊KYUKYO」や公式LINEでも発信しています。LINEでは楽団員の”演奏会鑑賞コーディネート”やクーポンを配信することもあります。
また、皆さんのお誕生日にはぜひ、LINEトーク画面で「おめでとう」と送ってみてくださいね♪ すてきな贈り物が届きます。(広報 リシェツキ多幸さん)
九州交響楽団
九州交響楽団事務局(末永文化センター内)
住所 福岡市城南区七隈1-11-50
電話 092-822-8855 FAX 092-822-8833
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