續・祖母が語った不思議な話:その参拾弐(32)「伯父の家」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 祖母が十の夏、伯父が隣県に引っ越すことになった。
 引っ越し先を探す伯父に妹である祖母の母も同行すると言うので、祖母も着いて行った。

 朝一番の汽車に揺られること小一時間、三人は目的の駅に降り立った。
 駅長さんに聞き周旋屋(不動産屋)を訪ねた伯父と祖母親子は、二手に分かれ物件を見て回った。
 祖母たちは午前中いっぱいいろんな物件を見たが、どこも条件に合わない。
 仕方がないので周旋屋に戻ると伯父が煙管を吹かしながら待っていた。

 「いいのがあるんだ。今から見に行こう」そう言うと伯父は周旋屋の主の先に立って歩き出した。
 祖母たちもその後に続いたが、主が浮かない顔をしているのが気になった。

 十五分くらい歩くと古いが立派な一軒家に着いた。
 門を潜ろうとする伯父の行く手を塞ぐように立ち、周旋屋の主は言った。
 「先ほども申し上げましたが、こちらの家はお勧めはいたしません。これまで越して来られた方がすぐに出て行くということが続いておりまして…理由を尋ねますと皆様ただ『気味が悪い』としかおっしゃりません。地元ではそれが噂になり誰も借り手がありません。それでこの物件についてはお話しなかったのです」
 「いやいや、わしは気に入った。これだけ立派なのに格安なのが特に良い!試しに今夜ここに泊まってもいいか?」
 「はあ、それは構いませんが…何があっても知りませんよ」そう言うと主は鍵を預けて帰って行った。

 三人は来る途中にあった蕎麦屋で夕食をすませ、件の家へ戻った。
 中に入り明かりを点け見てみると、古いが広くて清潔で伯父は満足そうだった。
 祖母は何か不思議なことが起こるのではないかとどきどきしていたが、特段なにもない。

 日も暮れたのでさあ寝るかと押し入れを開けてみると、敷布団があったのでそれを広げ横になった。
 伯父はすぐにいびきをかきはじめた。
 母も寝息を立てている。
 それを聞いているうちに祖母も眠りに落ちて行った。

 翌朝、顔を洗い布団を畳むと三人は出口に向かって廊下を進んだ。

 「結局何もなかったな。噂なんてそんなもんだよ」
 伯父がそう言った瞬間
 ト・ト・ト・ト・トンと、子どもの足音だけが三人の横を駆け抜けて行った。

…………………………………………………………

 「それで伯父さんはどうしたの?」
 「面白いって喜んでね、その日に契約。長いこと、その家に住んだよ」
 「変なことは無かったのかな?」
 「ちょくちょく妙なことが起こって退屈しないと伯父さんはすごく気に入っていたよ。私もその後、何度か行ったけれど怖い目には遭わなかったねぇ。帰るときに何度も足音を聞いたよ。あの家が見送ってくれていたんだろうかね」
 祖母は微笑みながら、そう話を締めくくった。

チョコ太郎より

 99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

子ども文化や懐かしいものが大好き。いつも面白いものを探しています!

目次