「主人が大好き!」と語る認知症女性 70代夫婦の壮大なラブストーリー【ほっこりする話】

認知症で施設入所している70代の奥様と、奥様に会うため施設を訪問する旦那様。離れていても仲の良いご夫婦は、波乱万丈な人生を歩まれたそうです。今回は、友人の親戚である70代夫婦の絆の物語をお話しします。

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穏やかな雰囲気の仲良し夫婦、実は…

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 祖母が入所していた高齢者施設に仲が良いと評判の夫婦がいました。夫婦は、私の女友達の親戚です。女友達に
 「あのご夫婦、素敵だね!」と話題を出すと、彼女は夫婦の軌跡について教えてくれました。

 70代の女性は、重度の認知症により高齢者施設に入所していました。記憶障害や徘徊などの症状があるものの、性格は穏やかな方です。日中は個室の部屋で過ごすか、共有リビングの日当たりのいい窓辺でまどろんでいました。
 体調の良い日は、陽気におしゃべりをすることもあり、必ず話題にするのは旦那さんのこと。夫婦で行った旅行のことや旦那さんの好きな食べ物のことを語り、
 「主人はとても良い人で、大好きなの」と、若い頃を彷彿とさせるような笑顔を見せていました。

 認知症ということもあり大抵同じ話をするのですが、話の締めくくりにはいつも
 「主人が大好き」と笑っていたので、本当に仲の良いご夫婦なのでしょう。実際、彼女の旦那さんは週に2回、奥さんに会うため施設を訪問していました。

 旦那さんは半身に障害があり、杖をついてゆっくり歩いて来ます。施設職員が奥さんのそばに椅子を用意すると
 「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げる旦那さんは、奥さんによく似た雰囲気の紳士。日の当たるリビングや静かな個室で語らう2人の周りには穏やかな空気が流れます。

 周りをほっこりさせてくれるご夫婦ですが、実は、現在の様子からは想像もつかない壮絶な人生を歩まれたそうです。

大恋愛の末、駆け落ち

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 奥さんは名家の生まれで、お嬢様でした。旦那さんはごく普通の家に生まれ、奥さんの家に出入りしていた業者の息子だったそうです。旦那さんは家業を手伝う中で奥さんと出会いました。

 2人は恋に落ちましたが、両親をはじめ周囲は猛反対。奥さんには許嫁もいたそうですが、それでも2人は想い合うのを止められず、駆け落ち同然に家を出て、結婚しました。

 両家は激昂し、2人を勘当。夫婦は誰の助けも借りられず、2人きりでスタートしました。旦那さんは手に職があったため、同業者に弟子入りし、数年後に独立。奥さんは旦那さんをサポートしつつ、外で働いた期間もあるそうです。

 旦那さんは奥さんの親に許しをもらおうと何度か実家を訪ねましたが、門前払いにあったり刃物が出てきたり…。勘当は解かれませんでした。家を出る前は裕福な暮らしをしていた奥さんにとって、誰のサポートも借りられない生活はとんでもない苦労だったでしょう。

 旦那さんは必死に働き、奥さんは旦那さんを支え、共に過ごしてきました。夫婦に子どもはいません。互いを想い合う気持ちだけで50年以上も寄り添っています。

認知症でも残る「大好き」の感情

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 奥さんが認知症と診断されたあと、しばらくは旦那さんが自宅で介護していたそうです。しかし、旦那さんも脳卒中により体を患い、奥さんをみるのが難しくなりました。
 現在は、旦那さんのみ自宅で生活し、奥さんは施設で生活しています。2人一緒に施設に入るのは、金銭の問題や住宅の事情で難しいそうです。
 
 旦那さんの訪問時、施設職員は目の届く距離にいますが、2人の時間を邪魔しないよう見守っています。ですから、夫婦がどのような話をしているのかわかりません。奥さんは見当識にも障害があるため、目の前の旦那さんを「主人」だと認識していない可能性もあります。
 しかし、旦那さんと話しているときの奥さんの顔は特別に優しく、若々しく見えるのです。旦那さんも微笑み、ときどき奥さんの背中をそっと撫でることもありました。

 認知症になったとしても、感情は忘れないのだなあと、2人を見て知りました。奥さんにとって旦那さんは、これからもずっと「大好きな人」なんですよね。大恋愛の末に結婚し、波乱万丈な人生を歩まれた2人の絆の強さが羨ましくもあります。

 私と夫には、人に語れるようなラブストーリーはありません。ごく普通の夫婦ですが、2人のように、相手のことをずっと大切にできたらいいなあと思うのでした。

(ファンファン福岡公式ライター/芦谷)

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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