小児肥満は、過体重や肥満が子どもに見られる状態のことを指します。これは世界的にも公衆衛生上の問題にも挙げられており、多くの健康問題の原因ともなります。小児肥満は多様な要因によって引き起こされます。今回は小児肥満の原因や食事や環境面から改善させる方法を、2児の母でもある管理栄養士が解説します。
小児肥満の原因
肥満になってしまう原因はどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、小児肥満になってしまう原因について7つに絞って解説していきます。
遺伝的要因
遺伝的要因には、親から受け継がれる特定の遺伝子の変異というものが含まれます。これらの遺伝子は食欲、飽満感、身体のエネルギーの消費、脂肪の貯蔵など、体重調節に関わるさまざまな生理的経路をコントロールしています。
例えば、満腹感を感じにくくして、結果として過食につながり肥満になってしまうこと。さらにこれに加えて、高カロリーな食事や運動不足といったライフスタイルの選択が、遺伝的傾向を持つ子どもにおいて肥満をより発現しやすくします。
食生活
小児肥満は、不適切な食生活が原因であることが1番多いといわれています。カロリー摂取の過剰、特に高脂肪、高糖分などの食品摂取増加が主な原因です。
ファーストフード、スナック菓子、ソーダなどの加工食品は、過剰なエネルギーを提供し、栄養価の低いまま食べ過ぎを促進します。これらの食品は、飽和脂肪酸、砂糖、塩分が多く、満腹感を得るために必要な量よりも多く食べることがよくあります。
また、子どもたちは、野菜や果物などの栄養密度の高い食品を十分に摂取していない場合が多いです。積極的に野菜や果物を食べさせる工夫が必要となります。
運動不足
現代社会では、多くの子どもたちが運動不足です。例えば、学校での体育の時間の削減、家でのテレビやスマートフォンなどのスクリーンタイムの増加、安全な遊び場の減少などが挙げられます。このような運動不足も肥満に拍車をかける要因といえます。
テレビゲームやインターネットなどの室内活動が増え、活動的な遊びやスポーツへの参加が減少しています。これにより、摂取カロリーを消費する機会が減り、余剰エネルギーが体脂肪として蓄積されやすくなっています。
心理的要因
ストレスや不安、抑うつなどの感情的な問題が食行動に悪影響を及ぼし、結果として肥満を促進する原因となることがあります。
心理的ストレスは過食のトリガーとなることが多く、特に感情的な困難を経験している子どもたちは、食べ物を安心感や慰めを得る手段として使用することがあります。これは「感情的食べ」とも呼ばれ、空腹でないにも関わらず、ストレスや寂しさ、退屈などの感情を抑えるために食べる行為です。
加えて、低い自己評価や体型に対する不満足、いじめや社会的排斥などの問題も肥満を引き起こす可能性があります。
社会経済的要因
小児肥満は、社会経済的要因とも密接に関連しています。高カロリーで栄養価の低い食品は比較的安価で容易に手に入るため、健康的な選択肢である新鮮な果物や野菜、全粒穀物よりも手に取りやすいです。そのため、家庭事情によっては食事に関して、高カロリーなファーストフードに偏ってしまうこともあります。
経済的圧力は、一般に親の労働時間を増やすことを強いるため、子どもたちの食事準備にかける時間や資源が制限されがちです。その結果、ファーストフードや加工食品への依存が増えます。さらに、教育レベルや健康に対する認識の違いも食生活に影響を及ぼし、肥満への理解と予防策の適用に差が出ることがあります。
地域によってはジャンクフードの広告がより目立ち、健康的な選択肢が提供されにくい、いわゆる「フードデザート」と呼ばれる現象に直面している場合も。これらの地域では、栄養豊富な食品を購入するための選択肢が限られているという場合も多い傾向にあります。
睡眠不足
小児肥満と睡眠不足の関係は、ホルモンや、代謝、および行動パターンの変化を通じてもたらされます。睡眠不足は、満腹感を促進するホルモンであるレプチンと、食欲を刺激するホルモンであるグレリンのバランスを崩します。不十分な睡眠はグレリンのレベルを高め、レプチンのレベルを下げることが示されており、これによって空腹感が増して過食につながる可能性があります。
医学的要因
小児肥満には、複数の医学的要因が関与することがあります。先天的な要因としては、遺伝的素因が挙げられます。両親が肥満である場合、子どもが肥満になるリスクは高まります。
また、内分泌学的要因も肥満に関与します。甲状腺機能低下症やクッシング症候群などの疾患は代謝を低下させ、未診断または未治療の場合に肥満を引き起こす可能性があります。インスリン抵抗性や糖尿病も体重増加に影響を及ぼすことが知られています。
食事以外での改善策
ここまで、小児が肥満になる原因について挙げてきました。では、どのような予防策や改善策があるのでしょうか。ここからは食事以外での改善策について解説していきます。
環境を整える
親の肥満、家庭内の緊張、過度の期待、または過保護など、家庭内の心理的な環境が子どもの食行動に影響を及ぼすことがあります。そのため、家庭や学校での環境を整え、健康的な食品が利用しやすいようにすることが大切です。健康的な食べ物を手の届くところに置き、不健康なものを減らしましょう。
身体活動を増やす
子どもの身体活動を増やすには、学校や地域社会のサポートが重要です。例えば、学校での活動的な休憩時間の促進、放課後のスポーツプログラムの提供、家族での身体活動の奨励などが挙げられます。運動を習慣化させることは、小児肥満を予防・改善するために大切です。
医療的介入
心理的要因に対処するためには、心理療法やカウンセリングが有効であり、自己イメージの向上、ストレス管理の技術、そして健康的な食行動への移行を支援することが大切です。全体的な心理社会的サポートを提供することで、小児肥満の予防と改善に効果が期待できます。
食事での改善策
子どもの肥満のリスクを回避するためにどのような食事にするべきなのでしょうか。ここではそのポイントをご紹介します。
バランスの取れた食事
バランスの取れた食事には、全ての食品群から適量を摂取することが含まれます。果物、野菜、全粒穀物、肉・豆腐・豆類などのたんぱく質源、乳製品をバランスよく摂取します。栄養価の高いひとつの食品をずっと撮り続けるのではなく、バランスが大事です。農林水産省では、食事バランスガイドが提唱されています。食事バランスを参考にしながら、日々の食事を見直すといいでしょう。
砂糖の過剰摂取を減らす
砂糖による短期的な満足感は過食を促してしまい、健康に必要な栄養素の摂取を妨げ、長期的に子どもたちの健康に悪影響を与えます。ソフトドリンクやジュースなど、砂糖が多量に含まれる飲食物の摂取を減らしましょう。
食事のタイミング・サイズ
食べ過ぎや間食を防ぐために、朝昼晩の定期的な食事のタイミングを確立しましょう。また、適切なポーションサイズを子ども自身に理解させ、食事の量を管理することも大切です。
社会全体で子どもたちの健康維持増進に関わることが最も重要
さまざまな原因によって引き起こされる小児肥満。小児のうちに肥満が定着してしまうと、将来重大な病気になってしまう可能性も。
子どもたちの明るい未来を守るためにも、家族だけでなく社会全体で取り組んでいく必要があります。そのためには、大人が食事について正しく認知し、少しずつでも食事の内容や環境について改善していくことが大切です。