福岡の書店員さんに福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。66回目は「六本松 蔦屋書店」(福岡市中央区)の峯 多美子さんを訪ねました。あわせて、この時期に読みたい話題の6冊を紹介します。
“くそみたいに報われない仕事”を経験した著者による自伝的小説
「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」ブレイディみかこ著
―こんにちは! 今回峯さんが紹介されるのはどんな本でしょうか。
福岡県出身の作家・ブレイディみかこさんの「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」(2023年10月KADOKAWA発行、1,650円、税込み)です。「シット・ジョブ」をテーマにした私小説で、作者自身の経験をもとに書かれています。
―「シット・ジョブ」とは?
「くそみたいに報われない仕事」を指します。本書は彼女(=ブレイディみかこさん)が18歳の夏に渡英を志し、夢を叶えるために福岡・中洲で水商売を始めるところからスタート。その後イギリスではケアワーカーなど低賃金、重労働といった数多の「シット・ジョブ」を経験し、そうした中で感じたさまざまな社会問題について触れています。
―実際に読んでみた感想は?
人種や性差別といった社会問題はもちろん、自分の育ってきた環境とは違う異国で働くという大変さ、葛藤がとてもリアルに表現されています。彼女が生きてきた時代の日本やイギリスについて知ることができますよ。淡々とした文章が余計胸に迫ってくるので、面白いと同時に考えさせられます。とても興味深く読みました。
―特に印象深い章はありますか?
最終章である第6章「パンとケアと薔薇」です。夢を追いながらも世間の波にもまれ、最終的に彼女が選んだ仕事や、たどり着いたところについて触れています。好きでやっている仕事でも、やっぱり辛いことはありますし、でも好きだから頑張れることもあると思います。いろいろなことがありますが、働く全ての人が自分の仕事を「シット・ジョブ」と呼ばなくて済むような社会になってほしいなと思いました。
―どんな人にオススメしたいですか?
学生を含む若い方にオススメしたいです。追体験により現代を生き抜くヒントなどが得られるのではないでしょうか。また、女性だから味わったうれしいこと、悔しいことも書かれているので、女性にも手に取ってもらいたいです。
―「六本松 蔦屋書店」について教えてください。
当店は2017年9月にオープンし、今年で7年を迎えます。取り扱い書籍数は約2万冊。“ライフスタイルを提案する”というコンセプトに沿ったラインアップが充実しています。蔦屋書店は特化型の店舗もあります。当店では街の書店が少なくなっていることもあり、生活提案ジャンルを充実させつつ、レシピ本やコミックの取り扱いなど、街の書店としての役割も担っています。
―峯さんは“文学コンシェルジュ”とか?
はい! 基本的には提案型の売り場を作り、オススメの本を提案しています。ご要望があれば選書することもあります。また、イベントやフェアの企画も行います。過去には音楽イベントや写真集のお渡し会、サイン会などを開催しました。今後もさまざまなイベントがめじろ押しなので、ぜひ店頭へお立ち寄りください!
―ありがとうございました! 自分と重ねて読めそうな本作、働く人はぜひ手に取ってみては。続いて話題の6冊を紹介します。
「藤井弁当」【Gakken】
藤井恵 著/1,320円(税込み)
29万部突破のお弁当本の大定番! 料理研究家の藤井恵さんが15年間お弁当を作り続けてたどりついた結論は「お弁当はワンパターンでいい」ということでした。使うのは卵焼き器一つ、おかずは3品で使う食材も3つだけ。毎回同じ手順で作るから毎日ストレスなく続けられます。これからお弁当作りを始めるすべての人におすすめの一冊です。
「『願い』はあなたのお部屋が叶えてくれる☆」【青春出版社】
佳川奈未 著/1,848円(税込み)
引き寄せの磁力が働く部屋づくり、あらゆる魔を消す魔法の拭き掃除、病気や不調のもとである瘴気(しょうき)を追い出す方法や、各部屋の波動の整え方など、あなたの家の部屋をまるごと“いいことだらけ”にし、運を大きく底上げする内容が満載です! これまで誰も気づかなかった「お部屋」と「わたし」の波動を同調させる、効果的な願望実現法&超☆開運法がここにあります。
「死なないノウハウ」【光文社】
雨宮処凛 著/990円(税込み)
49歳、独身、フリーランス。「この先」が不安で仕方ない、そんな文筆家が専門家たちを徹底取材!「働けなくなったら」「お金がなくなったら」「親の介護が必要になったら」どうすればいいのか。いざという時に知っておきたい、人生の荒波を生き抜くための必須情報集です。反響を呼び、発売後たちまち4刷となった話題の一冊!
「さよなら、田中さん〔文庫〕」【小学館】
鈴木るりか 著/726円(税込み)
14歳作家のデビュー作。圧倒的ベストセラーが待望の文庫化! 超ビンボーでも超ハッピーな、笑って泣ける母娘物語です。俵万智さんに「素晴らしすぎる。私たちが同時代に鈴木るりかという作家を得たこと。これは事件だし僥倖(ぎょうこう)だし大きな希望です」と言わしめ、あさのあつこさん、西原理恵子さん、石田衣良さんらも絶賛した一冊。
「時穴みみか」【双葉社】
藤野千夜 著/913円(税込み)
小学6年生の美々加はママに恋人ができて以来、帰り道に道草をするように。ある日、黒猫のあとをつけて巨木の根元の空洞をくぐり抜けると、昭和49(1974)年にタイムスリップしていました。くみ取りのトイレやダイヤル式電話、こっくりさんに夢中な級友…優しさと温もりに包まれた、ノスタルジックな冒険譚(ぼうけんだん)です。
「続 農家の法律相談 よくあるトラブルQ&A」【農文協】
馬奈木昭雄 著/2,200円(税込み)
「隣の畑を借りたいけど持ち主がわからない」「野焼きしたら罰金を取られた!?」「両親が残した田舎の家と畑を手放したい」「土地改良区の賦課金は離農しても払うのか」など農家のあらゆる疑問にベテラン弁護士が丁寧に解説してくれます。農業・農村のトラブル解決の道しるべとなる一冊。著者は久留米第一法律事務所(福岡県久留米市)所属の弁護士です。
いかがでしたか? ぽかぽか陽気のなか本の世界に没入しては。次回もお楽しみに!