明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
高校に入って友人の家に屯(たむろ)することが増えた。
なかでも学校からの帰り道にある古いアパートで一人暮らしをするT君の部屋は格好の溜まり場だった。
冬の夕暮れ時、件の部屋でT君をはじめとする4人で炬燵(こたつ)に入っていた。
学校での出来事や噂話をああでもないこうでもないと話していたが、早朝の課外授業があったため一人…二人…と横になり寝息をたて始めた。
それにつられて炬燵につっぷしうとうとしているとキッチンからT君の声がした。
「コーヒー、飲む?」
「うん。お願い」そう答えて顔を上げると、もう窓の外は真っ暗。
「僕も頼む」むくりと起き上がったK君も寝ぼけ顔で答えた。
ぼちぼち帰らなければともう一人を起こそうとしたとき違和感があった。
えっ? 寝ているのは二人?
そのうち一人はT君だった。
じゃあ…さっきの声は?
横を見るとK君も、眠っているT君をじっと見つめていた。
薄暗いキッチンをのぞきに行こうと立ち上がろうとしたとき、K君に腕をつかまれた。
「行っちゃダメだよ。それから今のことは二人にも言わないほうがいいよ」
そしてT君の家を後にした。
もう一人の友人と別れ二人になるとK君が口を開いた。
「これまで言わなかったけね…あの部屋、時々あまり良くない感じがするんだよ」
「何だろうね? お祓(はら)いとかした方がいいのかな?」
「お祓いのことはよく知らないけれど、難しいんじゃないかな…」
「難しい?」
「良い薬でも見立てが間違っていたら効くどころか逆効果だろ? 先ずは病気を特定しなきゃいけないんだ。だけどあまりに複雑でそれができなかったら? …あの部屋はそんな状態だと思う」
「T君大丈夫かな?」
「いろんなものがぐしゃぐしゃに固まって動けなくなっているから、中途半端に祓おうとしなければ大丈夫だよ。T君自身が気が付いていないのも幸いだね」
「ふ〜ん」
家に帰りこのことを話すと祖母はうなずいた。
「K君の言うことは当たっているね」
「遊びに行っても大丈夫かな?」
「今のままなら、まず大丈夫。でもT君には教えないようにね」
「うん」
それからも変わることなくちょくちょくあの部屋で過ごした。
不思議なことといえば晴天の日に窓を打つ雨音が聞こえる、突然TVが点くといったことがある程度だった。
社会人になって5年ほど経った頃、ふと懐かしくてあのアパートを訪ねた。
そこは更地になっており地鎮祭が行われていた。
もう少し早く来ればよかったと思ったが仕方がない。
それから更に5年くらい経った頃、たまたまそこの前を通った。
更地のままだった。
ふと見ると区画の端に石碑が立っている。
「◯年 ◯◯における◯◯事故犠牲者の冥福を祈り、御霊(みたま)の安らかに眠られんことを…」
慰霊碑だった。
そしてその横には長年の風雨で文字も読めなくなった古い古い石碑と目鼻も定かでない地蔵が立っていた。
思わず手を合わせた。
チョコ太郎より
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