現在、福岡アジア美術館で「谷川俊太郎 絵本★百貨展」が6月16日(日)まで好評開催中です。本展の魅力を3回に分けてお届けします。<レポートvol.2>
「絵本作家」谷川俊太郎を、全身で体感する
谷川俊太郎。日本で一番知名度のある詩人ということに、異論のある人は少ないと思います。ところが今回の展覧会の主役は、「詩人」ではなく「絵本作家」谷川俊太郎。実は谷川さん、これまでに200冊もの絵本を作ってきました。現在、福岡アジア美術館で行われている展覧会には、絵本作家としての谷川さんのエッセンスがぎゅっと抽出されています。
まず入口で心を奪われるのが、壁面に大きく映し出されたアニメーションです。自分自身こそが「まるのおうさま」だと自称するお皿やシンバルや円を描いて飛ぶトンビが、次々に登場してはまるを描いていく。優れたグラフィックデザイナーだった粟津潔と組んで作られた、1971年のモダンな一冊『まるのおうさま』を、現代の映像作家・坂井治さんがアニメーションにしたもの。
ナンセンスながら次々と画面に現れる◯が目に楽しく、朗らかでリズミカルな音楽に思わず体が動きます。「なるほど! ここは絵本をからだじゅうで感じる場なのだ」と説明されなくても理解できるイントロダクションです。
谷川さんの言葉のキレが炸裂した一冊『ことばあそびうた』は、なんとけんけんぱ遊びに転生。会場に置かれているシャンシャンとなる、ペルーの民族楽器を手に持って、「かっぱかっぱらった/かっぱらっぱかっぱらった/とってちってた」とけんけんしていると(なにこの言葉。おもしろくて口が楽しい!)、言葉のリズムとからだがシンクロしてきます。
次々に繰り広げられる展示はすべてこんな調子で、もともと紙の本に息づいていた谷川さんの言葉と、アイデアに触発された画家の応答が、空間に飛び出しています。
今回の展覧会のキュレーター・林綾野さんによれば、「谷川さんは絵本を、物語を語るものでなく、絵や写真の力を借りて、言葉だけでは表現できないものを表すチャレンジをしている」とのこと。こっぷを通すと世界がどのように見えるのかを写真で表現した認識絵本『こっぷ』、ページをめくるたびに少しずつ情報が増えていくつみあげうたを描いた『これはすいへいせん』。この形式じゃないと表現できなかったに違いないアイデアが満載で、谷川さんが広げた絵本の豊かさに巻き込まれてワクワクしてきます。
ちなみにわたしが一番好きだったのは、長新太さんと取り組んだ『えをかく』という絵本でした。なかほどの会場壁一面に、長さんのユーモラスな絵が展開されていて、それを横にずれながら鑑賞していると、朗読の声が聞こえてきます。谷川さん本人の朗読です。「まずはじめに じめんをかく つぎには そらをかく…」。そうして、谷川さんの声に寄り添うように、大地が描かれ、生き物が出てきて、子どもが登場して、家が建って、夢が描かれます。目の前で絵巻物のように少しずつ世界が現れる展示は、この作品が創世記をテーマにしているのとリンクしていて、この作品の前で一番多くの時間を過ごしました。
美術館で、「目」だけじゃない鑑賞体験ができる貴重な機会です。ぜひ詩人・谷川俊太郎に魅せられてきた人は、絵本作家・谷川俊太郎に会いにおでかけください。
展覧会とあわせて楽しめる特設ショップ
会場内特設ショップでは、本展オリジナルグッズや図録、書籍をバリエーション豊かに取り扱います。谷川俊太郎の言葉を生活の中で身近に感じることができるアイテムや、絵本の言葉と絵を合わせて楽しめるユニークなアイテムが登場します。展覧会とあわせてお楽しみください。
文/浅野 佳子(編集者・ライター)
谷川俊太郎
詩⼈。1931年東京⽣まれ。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。1962年「月火水木金土⽇の歌」で第四回⽇本レコード⼤賞作詩賞、1975年『マザー・グースのうた』で⽇本翻訳文化賞、1982年『⽇々の地図』で第三十四回読売文学賞、1993年『世間知ラズ』で第一回萩原朔太郎賞など受賞・著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表している。
「絵本★百貨展」で紹介する絵本
『絵本』写真・谷川俊太郎 的場書房 1956(2010復刊 澪標)
『まるのおうさま』絵・粟津潔 福音館書店 1971
『こっぷ』写真・今村昌昭 福音館書店 1972
『ぴよぴよ』絵・堀内誠一 ひかりのくに 1972 (2009 復刊 くもん出版)
『ことばあそびうた』絵・瀬川康男 福音館書店 1973
『とき』絵・太田大八 福音館書店 1973
『もこ もこもこ』絵・元永定正 文研出版 1977
『えをかく』絵・長新太 新進 1973 (1979 復刊 講談社)
『せんそうごっこ』絵・三輪滋 ばるん舎 1982 (2015 復刊 いそっぷ社)
『なおみ』写真・沢渡朔 福音館書店 1982
『うつくしい!』写真・塚原琢哉 日本ブリタニカ 1983
『ままですすきですすてきです』絵・タイガー立石 福音館書店1986
『ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ』絵・おかざきけんじろう クレヨンハウス 2004
『おならうた』絵・飯野和好 絵本館 2006
『かないくん』絵・松本大洋 ほぼ日 2014
『これはすいへいせん』絵・tupera tupera 金の星社 2016
『へいわとせんそう』絵・Noritake ブロンズ新社 2019
『オサム』絵・あべ弘士 童話屋 2021
『ぼく』絵・合田里美 岩崎書店 2022
『ここはおうち』絵・junaida ブルーシープ 2023 『すきのあいうえお』写真・田附勝 ブルーシープ 2023
和田誠との絵本あれこれ
展覧会概要
谷川俊太郎 絵本★百貨展
会期:2024年4月27日(土)〜6月16日(日)
観覧時間:9時30分〜18時(毎週⾦・⼟曜⽇は20時まで)※最終⼊場は30分前まで
休館⽇:⽔曜⽇ 会場:福岡アジア美術館 7階 企画ギャラリー(福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7階)