夜寝ている時に呪いの言葉が聞こえ始めたらあなたならどうしますか? もしそれが我慢の限界を超えた家族の無意識の叫びだとしたら? 今回は家族に実際に起きたストレスの限界突破による体験をご紹介します。
恐ろしげな呪いの言葉
私が小学4年生の頃、ある夜恐ろしい体験をしました。真夜中にお経のような言葉が聞こえてくるのです。怒気を含みくぐもった女性の声で、
「ゴニョゴニョ… んぐぅぅぅ…」両親の寝室から聞こえてきた声に驚きました。
眠かったのと怖かったのとで確かめに行くことはできませんでしたが、その日からその恐ろしげな声が時々聞こえてくるようになったのです。
またその声が聞こえてきた別夜、
「おい、その変な呪文やめろ!」と父が母に注意した声がしたのです。
「え? あ…ご、ごめんなさい」母は困惑しているようでした。呪文の声の主はおばけではなく母だったのです。
母の楽しみは児童文学を執筆すること
当時の母は同居していた姑である祖母への介護で悩み始めた頃でした。私に
「おばあちゃん好き勝手なこと言ってるよね…」とくもった顔で小言を聞かせることもたまにありました。私は母の愚痴に付き合ったり、母の代わりに祖母に対応したりして過ごしていました。
そんな母には楽しみがあって、所属していた会が自主出版していた児童文学を作成することでした。父の子どもの頃の体験談をネタに少年の冒険話を書いたり、母の故郷の児童文学を書いたりしていたのです。思い出話を元にお話を作っている母は、静かなのにとても楽しそうでした。
私も挿絵を描いて参加していたので、毎回完成を楽しみにしていました。その会に母と小学校のPTAなどで仲良くなった数人が入会することになりました。ところが、その会で古くからのメンバーと新入メンバーとで作品への批評をめぐって言い争いが起きてしまったのです。
間に挟まれ苦しむ
最初は母が丸くおさめようとしたようです。しかし、一度入った亀裂は解消されることはなく両者の棘のある言葉を母が受け止めていました。
「〇〇さん(母)、ここの会はずっとこうしてきたのにあの方たちのために変える必要があるんですか?あなたが連れてきたんですよ? どうにかしたらどうですか!」
「〇〇さん(母)、会長さんの言うことは、ただのわがままじゃないですか! あんな意見に賛同するんですか?」
母はただでさえ祖母のことでストレスが溜まっていたのに更にストレスを溜めていきました。そして、あの呪文に発展してしまったのです。言いたいことを言えないストレスの限界値を突破した結果でした。
吹っ切れた母
母に
「もう言いたいことをため込まないほうがいいよ。どんどん悪くなってるし」と言うと、
「… そうだね。気味の悪い思いさせてごめんね」と何かを決心したような表情でした。
呪いの呪文事件の後、母はその言いたかったことを会の中ではっきりと発言しました。
「楽しくやりたいから黙っていたけど、言いたい放題言うならこの会は解散しましょう。やりたい人同士で再度会を立ち上げたらいいと思いますよ。私はもう参加しません!」普段とても温厚な性格である母の剣幕に、会の人たちは驚いていたそうです。
その後、祖母のことで多少の小言はでるものの、呪文の寝言はなくなりました。会を離れたことで気持ちが落ち着いたのか
「最近抜け毛が減ったわ。会の活動がストレスだったのかしらね?」と穏やかな表情で話していました。同時に母の腕にずっとあった原因不明の発疹もいつの間にか消えていました。
本人も気が付いていなかったストレスサインは数多くあったようです。この一件で母もストレスに気を付けるようになりました。ストレスは目には見えないため、本人が追い込まれないと気が付かないことが多いものです。できればそうなる前に自分のことも、家族のことも見ていたいと思います。
(ファンファン福岡公式ライター/musukari)