会計は誰のものか。感情と勘定から為る「管理会計」を通して学ぶアントレ教育

「大学で学ぶことは、実務でも使える。『創業体験プログラム』飛田ゼミ10年の実り」で福岡大学商学部准教授・飛田先生のアカデミズムと実務が行き来できること、その実践としての「創業体験プログラム」を通して、真のアントレプレナーシップ教育を進められているその実態を伺いました。

前回に続き、今回も元研究者の卵にして新米経営者の「す~しゃちょー」がインタビュー!飛田先生の専門である「管理会計」とアントレプレナーシップ教育の可能性について深掘りしていきます。

「会計?自分には関係ないよね」と思っている社会人の皆さま、ぜひこの機会に一緒に会計の意義について知見を深めてみませんか?

度々失礼いたします。新米経営者のす~しゃちょーです。

まさか謝罪から入る記事を書くことになるとは思いませんでした。

ということでごめんなさい、一回でまとめきれませんでした。

前回、僕のぶっこみ質問「アカデミズムと実務」というところについて、飛田先生のお話を存分に伺わせていただき、そこから創業体験プログラム(創P)、その意味するところであるアントレプレナーシップ教育というキーワードをいただきました。

https://fanfunfukuoka.nishinippon.co.jp/20639-2

そして重要なことは「ふりかえり」だというお話も。

その重厚さをがっつり受け止めてしまったがばかりに、まさかの豪華二本立てと相成りました。

今日はそんな前回の飛田先生のお話をまさに「ふりかえり」つつ、研究対象である「管理会計」について、徹底的に深堀りしていく所存です。

目次

【1】アントレ教育の背景と実態:管理会計の研究者が、学生にアントレプレナーシップを伝える理由と

飛:「会計こそクリエイティブですよ。」

注意報が出るほどの猛暑の中、お互い冷たい清涼飲料で火照った体を冷やしつつ、またしても火照りそうなパワーワード。

飛:「もともと僕の先祖も商人で、父親も大企業の経理畑にいて、そういう意味では会計というものに縁があったとは思っています。」

ここからは、これまで聞いてきた飛田先生の背景をもとに、管理会計に対する解像度を上げていきたいと先生に伝えました。

飛:「会計を見る、ということは、人を見ることだ、と、師匠からも言われていました。」

100円のものを買う。帳簿には決まった形式で記録される。
しかしその裏には必ず意図があり、その100円のものを買うに至った人の行動が紐付いている。

飛:「そもそも(学生時代)僕のいた大学では改革のオンパレードで、大学が既成概念を壊して新しいチャレンジをするようなところでした。ですから、講義や地域貢献活動で社会に出ていくのが当たり前だったんですよね。」

す~:「(それは理系にはないな、、、)」

とか思いつつ、話は創業体験プログラムと管理会計との繋がりの話へ。

飛:「東海大学のときも、アカデミズムと実践の分断を感じながらも、「やってます」、という事実が大事だと思ったし(ちなみに九州の私学で唯一農学部を持っていて、だからこそそこで生まれるものを形にしたいと思ったそう)

熊本学園大学に移って一年目、セミナーで聞いた村口さんの創業体験プログラムに出会って、こういうことをやりたいなと。」

当時女性登用がブームとなっていて、その流れで京都大学が女性起業家育成に力を入れ始め、そのセミナーの講師として参加していた飛田先生が村口さんと出会ったそうです。

飛:「福大に移籍した最初のゼミ募集は、創業体験プログラムではなくて、日本企業の経営分析というテーマでした。けど、福大の学生たちの様子を見ていると、「なんか違うな」と思ったんですね。

ゼミ1期生というのもあって面白い学生が集ってきたから、いったん実践に振ってしまおうと創業体験プログラムを始めました。

机上で学んでいる会計や企業経営の一連のプロセスを体感するために。私が学生時代にサークルでやっていたことをゼミでやろうとしたわけですね。

私も最初は不安だったから、学生にああでもない、こうでもないと言ってました。けど、やっているうちに学生がどんどんイキイキとしてきた。

だから、最初はアントレプレナーシップというよりも、企業経営の経験をすれば会計の重要性がわかるのではないかというところから始まったんですね。そういう中でQRECの五十嵐先生を紹介され、アントレプレナーシップ教育を学ぶようになりました。」

今では、「創業体験プログラム」で投資を募った上で学園祭での模擬店出店を集めた資本金を元に運営させたり、更に発展して「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」として地方の空き店舗のオーナーさんに場所を借りカフェの運営などをさせたりと、より実践に近いところをさせています。

僕も商売をやってはいますが仕入や在庫のリスクなどを背負ったりするタイプの商売はしていないので、やれと言われてもドキドキしちゃいますね。

香椎駅前にて、ゼミ生がコーヒースタンドを取り仕切る様子
後述の「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」
様々な社会課題を背景とし、ニーズと可能性をマーケティングして行動に移している

ここでふと疑問が。

す~:「学生は体験を通じて気付くことができるのに、なんで実際の経営者は会計に目覚めない人も多いんでしょうか?」

体感的に、すごく多い気がするんですよね。税理士に任せてるからわからん、とか、数字は苦手だから、とか。

飛:「それはあれですよ、事業の実態のほうが大事だからじゃないでしょうか?」

どゆこと?

飛:「事業が回っている時、銀行口座にお金があるうちは、実務をいかに回すかが大事なわけですよ。会計を考えないといけないと思うタイミングは、一つは会社を大きくしたいとき。投資や売上の計画を立てるとき。そしてもう一つは経営が悪くなったとき、だと思います。」

まあ確かに、僕は金なし仕事なし人脈なしのトリプルボギーから始めましたから、むしろ数値計画建てないとやってらんなかった、というきっかけはありましたね。

飛:「自分が関わることが多いのは製造業の人たちですが、ここの人たちはむしろ勉強しているパターン多いです。リーマンショックを経験してますし、常にコストダウンと向き合ってますから。」

なるほど。といいながら僕はまだ学生でしたからあまりピンとはきませんが、建設関係の社長さんなんかからは地獄のようだった、という話だけは聞いていました。

ここから、飛田先生の会計に対する愛がにじみ出てきます。

飛:「アカウンティング、つまり会計がその真価を発揮してくるのは、記録が自分だけのものじゃなくなるときです。帳簿を元に、誰かに何かを説明する。他の人にとって意味のあるものになった瞬間、別の意味を持つようになるんです。そこからが会計の面白さにつながるんですよね。」

元々は経営財務、つまり資金調達と運用、企業がどこから資金調達して、どうそのお金を使うかを研究してきた先生が、お金の情報が載る会計を次のように説明してくれました。

飛:「財務会計は銀行さんとかとの対外的なやりとりに使いますし、管理会計になると今度は社内でのコミュニケーションに使います。「会計」が、「帳簿」が使われるニーズによって様々な意味を持つようになりますね。」

よかった。前回の冒頭の説明はだいたい合ってた。

飛:「会計に目覚めるか目覚め得ないかは、(その時の状態もありますが)結局あれですよ、自分が置かれている状況を認識できるかできないかの違いかなと。ダイエットと同じです。

自分がどういう状況か興味ある人は、毎日体重計に乗るし、目標とする体重やそれを達成する期限を決める。数字は結果でしかないと思う人は体重にあまり興味ないし、そもそも体重計にのらないです。」

まさかの例えも同じダイエットでした(ちょっとうれしい)。

飛:「会計の数字を過去の成果でしかないという人と、それを使ってどうしようかと考える人、その違いはあると思います。受験の模擬試験と一緒ですよね。」

模擬試験の結果に単純に一喜一憂する人と、結果がどうこうではなく、どこがよくて、何がダメだったのか、それを分析するために結果を「使う」人の差。そう聞くと、どっちが受験に合格しそうか、というのは想像しやすいですね。

飛:「そしてこれも学生にいつも言っているんですが、帳簿に出てくる売上、そして利益の源泉は、『お客様がお金を払ってくれる』これしかないんです。」

自分たちのやりたいことをやったらお金がもらえるわけではない。当たり前のことですが意外と難しいんですよね。

飛:「みんなとは言わないけど、漠然と『働く場』としてしか会社を捉えていない人にはわからないでしょうね。」

それは僕もそう思う。

飛田先生もそうだと思うし僕もそうですが、バカにしているとかでは決してなく、構造上の問題で。

大手をはじめとする組織構造が確定している企業の場合は、ひねれば水が出てくる蛇口がすでにあるわけなんです。だから、それをいつ、誰が、どのくらい回すか、その効率の良い運用が主たる活動になるわけで。

対して我々零細企業は、バケツを持って歩いて回って「お水をください!その代わり『これ』ができます!」みたいな感じなので、当然まずはお水をくれるだけの「これ」が何なのか考えるのが主たる活動になる。

もしくは足で稼ぐ。いずれにしろ、どうやったらお客様が水をくれるかをいつも考える。そうしないと死んじゃうからね。

そりゃそうなりますよ、それでもわかる大手企業の人はかなりのツワモノでしょう。

学生たちにしても、理屈を学んでも実行に移すのは難しい、と飛田先生は言います。

思い込みの話がまず出てしまうんですって。

飛:「それは本当にお客様が欲しがってるの?といつも聞きますね。それこそ学園祭は3日間しかないから、まずうまいもの、食べたいものを作ることが大前提。そこからマーケティングです。商品開発がとても大事。これ会計のゼミで教えることじゃないね(笑)。」

3~4年目くらいに自分自身もわかってきた、と飛田先生。うん、本当に大学の先生なのか怪しくなってきましたね。

ある年の模擬店で販売された「こぶたまん」 生地、タネ、顔つけを全部手づくりに
創業体験プログラム史上最も複雑で難しいオペレーションになったが、当日は爆発的ヒット商品になったそう

飛:「カレーうどんが売れない、って言っていたから、トッピングとしてチーズを用意していたので、「じゃあチーズカレーうどんとして出したら」、といって出したらめちゃくちゃ売れたり。

ケバブをやろうってなった時は、当時鳥インフルで一般的にケバブで使う鳥が使えず、牛は高いから、じゃあ豚肉だ、ということで(普通ケバブに豚肉は使わない)豚ケバブを売ってみたら史上最高に売れたり。ただその時はオペレーションが崩壊しましたけど(笑)。」

飛:「オペレーションが崩壊した時、無駄な動きとかもしているわけですよ。材料をセットで運べばいいのにバラバラに運ぶとか。オペレーションはなんとかなる。やっているうちに習熟効果が高まり、自分たちでアイデアを出して改善していくので。

ただ、売上を左右するのは、商品力、お客様がわかる商品名、場所だし、最後はチームのやる気でした。そういうのを見ることが自分自身の研究にもなります。」

完全に目線が事業主ですね。

飛:「総じて、『デザイン』が大事だと思いました。ここでいうデザインというのは、自分ではない他者に対して経営の目標や自分の意図を正しく伝える仕組みのことですね(詳しくは僕の本を読んでください。笑)。

自分のビジネスのデザインができないということは会計のデザインもできない。逆も然りで、会計が(ピー)と言っている人はビジネスも(ピー)。」

あ、ヒートアップしてきちゃった。今日は猛暑日。

飛:「『商学』は私たちに最も身近でいつも身の回りにあることを学問にしています。だから、日ごろの経済活動を批判的(クリティカル)に見ることが学びになります。

目の前にある事実をバイアスなく見つめながらも、真実は何かを考えるときにはクリティカルに見る。

つまり、クリティカルシンキングですね。思考するための一つの情報として、私たちは数字と向き合っているんです。

経営とは人、数字の裏には人がある、と師匠に言われてきました。一方で、体験していないことはわからない、とも思います。ビジネスの話となると実務家の話しか聞きたがらない人いますよね。学生にも結構いたりします。話が面白いから。でもそれはそれでまた問題で…」

経営者にもそういう人多いですよ。ええ。

飛:「商学部にいればビジネスのエッセンスは大学で聞いているはずなんです。創業体験プログラムをやってみて、講義の話がわかるようになったという学生もいます。アカデミックと現場のビジネスは行き来できるはずなんです。

けど社会人の多くは「大学は象牙の塔だ」と思っている。実践は理論に勝ると考えている人もいるかもしれない。ビジネスの方法論に限って、好きなことを好きなように経験に基づいて語ってしまう人は多い。

あるいはそういう方法論が唯一正しい答えであるかのように考えてしまっている人もいるかもしれない。
そういう価値観が今の日本の状況を作っているのかもしれないという危機感はあります。」

象牙の塔、とは、閉鎖空間を揶揄した表現。

飛:「ビジネスとは、人と違うことをやることだと僕は思っています。他者の取り組みを学んだ先にある、自分だけしか知らない真実をもとに顧客のニーズを探る。自分の研究も、メインストリームのやり方とは違う自覚があります。

でも、他人と違うことをやることに意味があると思い、それまでほとんど研究成果がなかった中小企業の管理会計研究を12~13年前に始めました。そして、「ここでやらないと」と思い本も書いてきました。(改めて言いますが)僕にとっては教育、実務、学問、全て含めて研究なのです。」

実は飛田先生、2021年5月にこれまでの10年あまりの研究成果をまとめた書籍「経営管理システムをデザインする」を上梓されました。

もちろん事前に入手していましたが、僕は本稿をあらかた書き終えた直後にこの本を読みました。

これは僕なりのこだわりで、普通逆だとは思いますが、極力色眼鏡をかけず、生の飛田先生を感じたそのままを率直に表現することで、なるべく「人間・飛田努」をみなさまにお届けしたかったからです。従いまして読了後も文章は構成上必要な変更以外は加えていません。

本の内容については本稿の最後に触れたいと思います。

【2】会計は誰のものか:曖昧な概念を曖昧なままにしない、これこそが「会計」の本質

さてさて。

そんな研究者・飛田先生が一番大事にしているのが「ふりかえり」だと言います。

す~:「「俺感覚派なんで」、「私感性の人だから」、という人結構いますよね。飛田先生としてはどう思いますか?」

飛:「それは勝手に自分でラベリングして逃げているのかな…。」

て、手厳しい、、

僕なんか、まあそういう考え方もあるかもね、何が正しいかなんてわからないし、みたいに思ってしまいますが。

飛:「曖昧な概念を曖昧なままにしない。(相互理解をしようと思えば共通言語として)文字、言葉、数字にしないと相手には伝わらない。伝えたいことを正しく(漏れなく、ダブりなく)伝えることがコミュニケーションの基本というものだと思います。

ふりかえりを通して、知識、経験が足りないことに気づき、それに対して勉強する。(ふりかえりを放棄するのは)成果になかなか結びつかない経営者だったり、社会人、学生に見られる共通点かもしれないですね。そしてそこをつつくと、「あの人こわい」ってなることがあるけど(笑)。」

僕はどちらかというと理論派のつもりですが、数字に寄りすぎるのもどうかと思うし、特に経験の少ない自分にとって、ときには感覚で決めざるを得ない場面は往々にしてありますが、ことコミュニケーションという視点に立った時、自社でもお客様の現場でも、数字がコミュニケーションの思わぬ問題を解決してきた場面は少なからず見てきました。

それにしてもやっぱり「やってみないとわからない」。

飛:「今回のオリンピック然り、日本人って自分が何者なのかを考える力が弱いんじゃないかとも思います。どっかで誰かが決めてくれるだろうと。コロナが象徴的。」

民主主義の持ち腐れ、という感じ?GHQに構造改革されるまではそういう社会ではなかったから仕方ない側面もあるとは思いますが。

飛:「私にとって本や論文を読むのは、インプットはもちろん、リフレクション、つまりふりかえりなんです。見てきたこと、聞いたことを整理するために本を読む。ビジネスができる人はアカデミックもできると思ってます。新しい技術だってある日突然できるわけじゃない。膨大な勉強と試行錯誤の積み重ね。

そういうこともあって、ゼミ生はゼミに入る2年生の夏休みに3-4冊、春休みに2-3冊、3年生になると毎月1-2冊という具合に課題図書が出されてレポートを書くというトレーニングをしています。

実践をただやるのではなくて、インプットして知識を持って実践することもやってます。選書は定番もあれば、その時の興味関心で選んでいるものもありますね。」

本、読まねば(汗)(注:す~しゃちょーは本を読むのが大の苦手です)。って原稿書いたら飛田先生がブックリストを送ってくださいましたので頑張って読みたいと思います!(ほんとどこまで面倒見がいい先生なんや…

飛:「社会科学の分野もどんどん細分化、ミクロ化してきました。解像度、という言葉が最近流行っていますけど、それをどのレベルまで教えればいいのか、というのは難しいところ。最前線に出るのはそれを見極めるためでもあります。あの時学んでおいて良かったな、と言ってもらえれば本望です。」

つくづく教育者の鏡ですね。

そんな先生についつい甘えてしまいしょうもない質問

す~:「それって天文学と一緒ですかね?宇宙というマクロ的なものを正確に把握するためには、結局素粒子(物体を限りなく細かくしていったら最終的に残る、それ以上細かくできない粒のこと)のようなミクロなことをわかっておかないとわからない、みたいな。」

飛:「そうそう、そういうことです!」

温かい切り返しありがとうございます。たまに起こる元理系の発作です。

【3】会計はみんなのもの:会計は共通認識。その共通認識をどうデザインするかが経営者の仕事

す~:「ところで、福岡の経営者ってどうですか?」

おーい、質問の質!(汗)

飛:「そうですね(笑)、福岡は商業の街ですから、サービス業や(スタートアップ機運のおかげで)若い経営者が多い、そのせいか軽やかな人が多い気がしますね。

その特性上売上を伸ばすにはどうするかを考えているのでインターフェースの話(極端に言えば「どう売るか」という話)が好きな傾向がある気はします。逆にがっつりした本質に迫るような話はしたがらない?なのかな?」

飛田先生のフィールドワークは今の所製造業がメインなようなので、そっちは逆に安定志向、ものづくりに対する誇りをベースにした責任感がある人が多い、とのこと。

飛:「商人ということで何考えているかわからない人も多いですね。たまに目が怖い(笑)。」

商人としてはそのくらいが丁度いい?(笑)

特に東京の人が福岡に来ると、優しい人がすごく多い、と感動することがあります。道を訪ねてみるとよくわかります。

それも博多商人の軽やかさを気質として受け継いでいるからでしょうか。

たまに福岡の人と比べて自分の冷たさに自己嫌悪になることもあります(汗)

最後に、ということで、質問をしました。

す~:「管理会計に関して、視聴者のみなさまに最後に一言お願いします。」

飛:「視聴者に一言ですか?(笑)」

お前はどこかで質問の勉強をしてこい。このアンポンタン。

いやここまで熱く語っていただいた飛田先生のテーマとする管理会計というものを、どうしても最後にみなさまに強く印象に持ってもらいたくて。

そんな僕の雑な振りに対しても、飛田先生は真摯に応えて下さいました。ああ、なんていい人。

飛:「会計とは共通認識を作るベースとなる情報源であり、その共通認識をどう『デザイン』するのかが経営者の仕事だと僕は思います。」

本のタイトルにも使われている「デザイン」という言葉を引用する飛田先生。

飛:「例えばここから博多駅まで行くのにどうやって行くか?シーンによっていろいろあるはずなのに大抵は『地下鉄』という言葉しか出ない(取材現場から博多駅までは地下鉄で一本)。

でもバス、タクシー、自転車、なんならヒッチハイク、いろいろあるのに関わらずです。なんで決めつけるのか。この方法しかないという教育のされ方をしてるよね。」

福岡から仙台まで自転車で行った僕、高みの見物(おい)。

そういう話ではもちろんなく、簡便さだけが方法を決める唯一の根拠ではないということ。

飛:「でも、学校教育の現場ってそうはなってないことが多いように思います。極端に言えば、どうすれば結果が出るかしか教えない場合もある。

だから、大学に来てまず教えることは多様な選択肢があるということです。その選択肢からどれかを選んで行動する。行動してからは「自分で選んだ選択を正しくする努力」をするしかないんですよね。

だから、会計が大事だし、その前にアントレプレナーシップが大事。アントレプレナーシップって闇雲に何かやるという話ではなくて、「コントロール可能な資源を超越して機会を追求する」ことなんです。

自分の手持ちの資源を使って、数ある選択肢を選ぶ、周りの人の協力を得ながら前に進むってことです。そして、決算書に載っている数字の裏側には人の思いが紐付いています。

その効果を貨幣的価値で測定しているのが会計ですよね。数字の裏側に見えるコンテクスト(文脈)が大事なんです。同じようにビジネスをしていても、数字に結びつくか、つかないかというのは、その時の人の考えだったり、状況だったり、行動の結果の違いなんだろうと思います。」

多分、僕が言い出したはずなんですけど、と前置きしこう続けます。

飛:「行動ベースで考えるのもいいけど、会計、言い換えると勘定と、感情は表裏一体で、無味乾燥なものではない。管理会計って企業の内側のものだから特にそう。」

僕は正直このお言葉に救われましたね。自分のことだけならいざ知らず、仲間のことを強く想うほど、最終的には数字のことを深く考えるようになるのです。ですが、そんな思いとは裏腹に、そういう話をすればするほど遠ざかる人がいたのもまた事実で。

す~:「コンテクスト、つまり数字以外の話に集中できるように、会計はあるのでしょうか?」

僕は期待を込めてそう質問しました。

飛:「昔は、企業として達成するべき目標を働く個人に対して上意下達で伝えるのに便利だったけど、最近は『パーパス経営』のような言葉が示すように、理念や企業のあるべき姿に結び付くように数字に意味を持たせようとする。

特にスタートアップではすーさんの仰るような考え方が多い。変わってきたと思います。」

一方、こんな印象的な話もいただきました。

飛:「実は中小企業のうち今も残っている企業って、お客様や従業員を大切にする経営をしているところが多いんです。そして調べてもらえればわかりますが、社歴100年を超えている企業の数は世界で日本が一番多いんです。

味噌、醤油、酒などを製造している地場の中小企業です。数字を追い求めて上場を目指す、そのために会計を駆使するというのももちろんありますが、身の回りの人たちの生活を潤すために会計を駆使してきたという事実も日本にはある。

そうした企業が地方にはたくさんある。そういう経営者こそアントレプレナーシップの塊と感じます。地方には何もないのではなくて、『余白』がある。

その余白をうまく使って機会を創ろうとする経営者がたくさんおられます。だから僕は地方に興味があるんです。」

ベトナムの工場を訪問した際の記念写真。ゼミ生も同行させてもらったそう

飛田先生の追い求めている理想は、当社の経営理念ともとても近く、純粋に共感を覚えます。

そう、我々は、日本人。ご先祖様のおかげで培うことのできたこのアイデンティティは、尊ぶべきものだと思います。

飛:「ファッショナブルに、わかりやすくやりたがるのが最近の傾向ですが、それが顧客や働く人の求める本質的な価値なのか、というのはいつも思います。」

単純化された資本主義に対する問いかけ、なのかもしれません。

飛:「本の中で取り上げた企業は、純粋に面白いなーという基準で訪れたのですが、あ、これだけは自慢してもいいですか?(笑)、それらの会社は研究で取り上げてからも、さらに売上が伸びているんですよ、本当に。健康診断ができたからかな?」

本のアピールも最後まで忘れない飛田先生に脱帽です。

それは冗談として、これまでの中小企業研究に、それこそ「バカみたいに」真摯に取り組んだからこそ得られた、飛田先生の慧眼が発揮された結果なのだろうと、僕は思いました。

これが本当に大事なことなんですが、と飛田先生。

飛:「経営者の意思決定って、膨大な選択肢の中から行われるじゃないですか。最後は勘なんだけど、それまではどこまでも理詰めなんですよ。徹底的に理で考える。その時に経営者だから売り上げだったり、コストだったり、利益で比較をしているはずなんです。

あるいは、従業員の状況を見ながら、その仕事を受けるかどうかを考えている。いずれにせよ、数字で判断しているんです。だから、リスクを測定してからやるかやらないか決めるのが大事で、それが会計の一つの意義です。ビジネスを実際やってみてわかることがあります。

でも、その成果を測ることも大事。やる前にどうなりそうか予測するのも大事。むしろ測れないことをなんでやるのか?測れないものは判断できない。それは感情で決めているに過ぎない。学んできたこと、やってきたことの積み重ねでしか判断できない。その意味を知るためにも測ることが大事なんです。」

やってみての失敗はいいが、取り返しがつかない失敗にならないよう測ることを学ぶ。それが蛮勇と挑戦の違いなのではないかと、最後の飛田先生の示唆から僕は感じました。

【4】総括:アントレプレナーシップは、企業家やスタートアップ創業者だけのものではない

インタビューはここで終わり、その後一緒に食事をさせていただきました。

その席では主に今のゼミ生のこと。

冒頭でもご紹介したとおり、飛田ゼミの方々とは日頃から交流がありまして、一緒に学生さんの起業に関わっただけでなく、ある学生さんにはお仕事の依頼をしたり(フクリパでの大学生ライターさんもそうです)、一緒に学生さんと経営者の勉強会に参加したり、定番のお悩み相談なんかもお相手させていただいたりしていました。癒着ですね(笑)。

弊社にお悩み相談に来てくれた飛田ゼミの学生さんと語り合うす~しゃちょー

飛田先生の教育方針のおかげでもあると思いますが、何より対等な関係で学生さんたちと日々触れ合えるのは僕たちにとってもとても心地よいです。

飛田ゼミ生の大学生ライターの記事はこちら!

★砂畑龍太郎さん https://fukuoka-leapup.jp/writer/33
★大塚千尋さん https://fukuoka-leapup.jp/writer/41
★樋口純玲さん https://fukuoka-leapup.jp/writer/58
★竹嶋海音さん https://fukuoka-leapup.jp/writer/60

本当にいつも学生さんたちのことを思っているんだなーという感じでお話をしていると、

飛:「あ、そういえばアントレプレナーシップについてあんまり語ってないけど大丈夫?」

す~:「はい、大丈夫です。」

飛:「そうなの?」

す~:「はい。だって今回のお話、全編に渡ってアントレプレナーシップの塊だったじゃないですか。十分です。先生がアントレプレナーシップについてどういう想いで向き合っているか、すでに語られていると思っているので。」

飛:「そっか、そうしたら記事楽しみにしていますね!あ、そうだ大事なことを言わないと。」

す~:「なんですか?」

飛:「学生たちには本当にいつも感謝しているんです。いやほんとに。これ、記事に載せといて(笑)。

す~:「ツンデレか!(笑)」

飛田先生は言います。
アントレプレナーシップ、企業家精神とは、企業家のためだけにある言葉ではない、と。日本語訳がそうだから勘違いしやすいんだけどね、とも言いながら。

飛田先生は、アントレプレナーシップとはつまり、リスクを受け入れ、今を超えるために一歩踏み出す、そのために必要な心のあり方、と言います。

それを持った上で、どんな生き方をするか、それこそ自由だ、ということです。

ここで著書「経営管理システムをデザインする」のまえがきの中から先生の言葉を引用すると、自身のこと、自身の研究のことを次のように表現しています。

「限られた時間で十分な調査件数であるとは言えないが、経営者のみならず、組織成員に対してインタビューを実施していることは本書の一つの特徴である。」

「筆者の研究アプローチが必ずしも学会の最先端とは言えないかもしれない。~本書が採用する「デザイン」という視点が理論的にも実務的にも何らかのインプリケーションをもたらすことができれば幸いである。」

なんともアントレプレナーシップに満ちた表現だと思いませんか?

足りないものがあることを自覚し、それでもやるべきことに向け、今やれること、今やることの意義を明確に見定め、ともすれば糾弾されるかもしれないリスクを承知でチャレンジする。

自身は研究者である、と、本稿でもはっきりと示された上で、アントレプレナーシップを自ら実践し、体現する。

きっとそんな「バカみたいな」先生だからこそ、創業体験プログラムは10年も続くことができ、その思いを学生さんたちは感じているのでしょう。

僕のような実務家からみてもそれは同じです。この先生なら、きっと自分たちと同じ目線で自分たちを見てくれる。

だからこそ、そんな先生が人生をかけて研究されている管理会計に対して、僕らはその重要性に気付くことができるのでしょう。

だから逆に、僕らもアカデミズムに対する観念を見つめ直し、真の産学連携というものを目指していくべきなのかもしれません。そしてちゃんとあとがきにもこのように書いてありました。

「また、私の拙い講義やゼミでともに学んだ学生、大学院生たちにも感謝したい。彼らとともに学ぶ機会、特に彼らが持つ疑問に答えることが研究を推し進める重要なヒントであった」

そんな愛すべき飛田先生に最大限の敬意を込めて、この称号を贈りたいと思います。

「アントレプレナーシップ溢れる管理会計研究バカ」

ご覧頂きましたみなさま、誠にありがとうございました!


文=す〜しゃちょー

飛田先生のご著書

『経営管理システムをデザインする (牧誠財団研究叢書 14)』

さらに!フクリパ読者のために推薦図書リストもいただきました!

●『全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術: あなたも世界を変える起業家になる』山川 恭弘,大前 智里(著

●『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』馬田隆明 (著

●『デジタルエコノミーの罠』マシュー・ハインドマン (著),山形浩生(翻訳)

●『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』緒方壽人 (著)

●『人間主義的経営』ブルネロ・クチネリ (著), 岩崎 春夫 (翻訳)

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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