明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズも残すところあと8話。今回は第1シリーズ6話「木目」の続きです。
小学3年生の秋、三木さんという友人の新築祝いに祖母と出かけた。
そこは新しい木の匂いが漂う気持ちの良い家だった。
祖母の真似をしてお祝いを述べると三木さんはとても喜びお菓子をくれた。
「そういえば前にもおばあちゃんと新ちくいわいに行ったことがあったね。なんか…こわいはしらがある家」
門を出た時、祖母に話しかけた。
「大賀さんの家だね。覚えていたかい」
「うん。すぐよそにひっこして行って、家もこわしたよね」
「そうそう。実は新築祝いの後、気になって何回か訪ねたのよ」
「へぇ! それでどうだったの?」
「あの家はね…良くなかったよ」
家路をたどりながら祖母はその家についての出来事を語りはじめた。
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最初の訪問からひと月後、祖母は大賀さん宅を訪ねた。
門をくぐるとどこかおかしい。
庭のあちこちが盛り上がっていて植木の根が顔を出している…たったひと月でこんなに育つものだろうか? そう思っていると玄関の戸が開き三十代の女性が出てきた。大賀さんの娘さんだ。
「母は不在ですが、どうぞお上がりください」
応接間に通され雑談をした後、床の間を見せてほしいと告げた。床の間の襖を開けた瞬間に異変を感じた。
ここだけ白粉のような甘い匂いがしている。
「この匂いは?」と尋ねてみたが娘さんは怪訝な顔をするばかりで、気付いていない。
「この床柱…木目が下を向いてますね。普通は逆にはしないのですが…なにか訳があるのですか?」祖母が訊いた。
「家を建てることが決まった後、私の父がどこからかこの柱を運んできて『絶対にこれを使え!』って言ったんです。父はそれから三日後に急逝したのですが、柱に〝天〟〝地〟って書いてあったからその通りに使ってもらいました。遺言みたいなものだからって」と笑った。
祖母は半年後、再び大賀さん宅を訪ねた。
チャイムを押しても誰も出てこないので留守か…と思った時、娘さんが出てきた。
「すみません、ちょっとばたばたしていて…」
話を聞くと、あれから家人が次々と不調を訴え床に就いているという。
祖母は家には上がらずに「お大事に」と告げ、門を出た。
それから三月ほど経った頃、どうしても気になった祖母は親しくしている大工の棟梁を連れ、大賀さん宅を三たび訪ねた。
迎えてくれた娘さんは酷く痩せており、ひと目で体を壊しているのが分かった。
齢90になろうかという棟梁は家の中を見ながらずんずん進んでいく。
玄関、居間、書斎…そして床の間。
「あぁ、こりゃ駄目だ。こんな柱をこんな風に使うと駄目だ」
「この柱だけ交換したら…?」
「いや、そんなもんじゃ済まねェ! 家全体に広がってらぁ。悪ぃこたぁ言わねえ。すぐに他所へ越して、この家ぁ壊すこった。このまんまだと…」
「このままだと…?」
「死人が出る」
娘さんは真っ青になった。
それからひと月ほどして大賀さんは越して行った。
家は解体されたが、壊すときに考えられないような事故で2人が怪我をした。
このままでは危ないと、例の柱は寺に運んでお炊き上げをした。
祖母と棟梁、そして越して行った娘さんもやって来て立ち合った。
「ぱすぱすぽんぽん」という奇妙な音を立てながら柱は燃えていった。
髪の毛を燃やしたような匂いがした。
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「そんなことがあったんだ! 知らなかったよ」
「あの家の新築祝いから帰ってから、あなたが何日も夢でうなされていたから黙っていたのよ」
「うわぁ! いやだなぁ…」
「一週間くらいで治まったけどね。よっぽど怖かったのか、それとも…」
「それとも?」
「憑いてきていた…のかな」
祖母がそう言ったとき強い風に竹薮がざわざわと揺れた。
風がおさまると金木犀の匂いがした。
チョコ太郎より
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