結婚20周年という記念すべき節目。思い切って、夫婦ふたりで豪華ホテルへの旅行を計画しました。とこが旅の途中、思いがけないことが起きたのです。ふかふかのベッドで眠るはずが、車の中で朝を迎えることに…。一体何が起きたのでしょうか。
露天風呂付き豪華ホテルに宿泊!
大学生の娘と高校生の息子には、まだまだお金がかかる節約の日々。でも親だって、たまには楽しみたい。結婚記念日は、一念発起して豪華なホテルに泊まることを決めました。反抗期の息子には断られてしまい、娘は家を出て一人暮らしをしているので、夫婦ふたりで出かけることにしました。
旅行当日。ホテルに到着して客室のドアを開けると、そこには別世界が広がっていました。川のせせらぎが聞こえるバルコニーに、石造りの露天風呂、バーカウンターにゆったりしたソファーなどラグジュアリーな雰囲気。「たまには、自分のためにお金を使うのもいいな」としみじみ思いました。
まさかの着信
夕食は評判のレストランへ。メニューを見ていると突然電話が鳴り、娘からの着信でした。わざわざ電話? と不思議に思って出ると…
「ゴホッゴホッ… ゴ、ゴロナ(コロナ)になった… ぐ、ぐるじい(苦しい)、眠れない、おねがい来て…」
息も絶え絶えの娘は、旅行中だと知っていて初めは遠慮していたものの、どんどん具合が悪くなり不安になって電話したそうです。
私は「気をつかわせてごめんね」と思うと同時に「でも露天風呂付き客室が…」とヨコシマな気持ちがよぎりました。すると夫は
「わかった、夜中になっちゃうけど行くから待ってて!」
と即答。私も
「そ、そう、行くからね」
絞り出すように言いました。お楽しみのビールはキャンセルし、急いで食事をしてホテルへ戻りました。
豪華ホテルを夜中にこっそりチェックアウト
長距離を一人で運転し疲れていた夫。娘のところへは、車で3時間ほどかかります。危ないので、少し仮眠をとることにしました。
待望の露天風呂には急いで入浴し、睡眠時間を確保します。ベッドは寝心地が良く、体の疲れがスーッととれていくようでした。「ああ、このまま朝まで眠りたい」と思っていると、「ピピピピ!」無情にも23時を知らせるアラーム音が鳴り響きました。
部屋を出て、誰もいないホテルの廊下を静かに進みます。こんな深夜にチェックアウトをするなんて、フロントの人が怪しんでいるのでは? と思った私は、聞かれてもいないのに
「ひ、一人暮らしの娘がね、具合が悪くなってしまいまして」と独り言のように言うと、まるで何かから逃げるようにコソコソとホテルを後にしたのでした。
娘のところへ駆けつけ、ドアを開けるとそこにいたのは?
途中、24時間営業のスーパーでリクエストされたフルーツなどを買い、夜中の3時頃アパートに到着しました。電話でとても苦しそうだった娘。容態が急変することもあると聞き、倒れていたらどうしよう… おそるおそるピンポンを押すと、ドアがゆっくりと開きました。
するとそこにいたのは… ニコッと笑った娘でした。え、普通に元気そう、どういうこと!?
なんと私達に電話した後から急に熱が下がりはじめ、眠れるようになったというのです。ただ、
「まだ不安だから、一緒に居てほしい」と言われ…。
高級ベッドから、車中泊へ転落
ワンルームのアパートに一緒に寝たらたちまち感染してしまいそうです。アパートの前には有料駐車場があり
「車の中で朝まで待機するから、体調が悪くなったらすぐに呼んで」と言うと、娘も納得してくれました。
車に乗ってシートを倒して寝てみるものの、さっきまで寝ていたホテルのベッドとは雲泥の差。体が痛い、暑い、まぶしい(夏の朝は早い)! なんとか朝7時まで過ごし、娘の体調が大丈夫なのを確認して帰路につきました。
夫は
「具合の悪いときに頼れる人がいる、その安心感が良かったんじゃない?」と満足そうに言いながら、家に着くとベッドに倒れ込んでいました。
翌日、露天風呂付き豪華ホテルリベンジのため「また仕事と節約を頑張ろう!」と思っていると娘からの電話が鳴りました。
「もう熱は下がったんだけど、まだ外に出られないから… シャインマスカットを送って!」歯を食いしばりながら、震える手でネットスーパーのボタンを押した私でした。
(ファンファン福岡公式ライター / 柴田真千子)