初めての出産に挑んだ日。なかなか進まないお産に「痛い! 痛い!」と言う私に、助産師さんから出されたのはまさかの”痛い禁止令”!「痛い」というたびに「かわりにこう言いなさい」と訂正されましたが、それどころじゃないので無理でした…。
出産はソフロロジー式分娩
第1子を出産した10年前。
希望した産院は総合病院ではなく、ソフロロジー式分娩を取り入れた産婦人科でした。妊娠中は産婦人科医で開催される母親教室へ熱心に通い、イメージトレーニングは完璧。
痛みを和らげるための音楽を聞き、瞑想し、呼吸法の練習をしてその日を待ちました。これでいつ陣痛がきてもリラックスして痛みを逃がしながらお産に臨めると自信満々でした。
いざ陣痛 想像以上の痛みに悶絶
そしてやってきた陣痛。時間を計りながら記録を取り、準備万端で産婦人科へと向かいました。待機するための部屋で流れるソフロロジーの音楽を聞き、練習通りの呼吸法を取り入れます。
「大丈夫、ここまではイメージ通りだ」と思っていられたのは産婦人科に行ってから3時間ほどでした。陣痛の痛みが強まるごとにあまりの痛さに悶絶。呼吸法どころではありません。さらに予想していたより長い…!
いつ終わるかもわからない陣痛に涙を流しながら
「痛い! 痛い!」と叫びました。激しい痛みはそれからさらに10時間ほど続きました。陣痛の強さはMAXなのに、赤ちゃんがなかなか降りてこなかったのです。もはや意識は朦朧。こんなことを歴史上の女性たちは乗り越えてきたなんて信じられません。呼吸法も、音楽も、何も私を助けてはくれません。
いよいよ分娩室へ
もはや心が折れかけていたその時、ようやく分娩室への移動が決まりました。
「やっと終わる…!」ゴールへの希望の光が見えます。移動した分娩室でもやはりソフロロジーの音楽が流れています。
いくら痛みを和らげるための音楽とはいえ、13時間以上同じ音楽を聞き続けると嫌気がさすもので
「ちょっと音楽止めてくれませんか…」とお願いしてしまいました。
「痛いじゃなくて、こう言いなさい」って言われたけれど…
分娩室に入ると痛みはさらに強まります。何度口に出しても意味ないのは分かっているのに
「痛い!」しか言えなくなりました。そうして泣きながら「痛い」と言う私に、助産師さんが驚きの一言を放ちます。
「痛いは禁止!『あ』をつけて『あいたい』って言いなさい!」それからは
「痛い!」
「あいたい。はい、言って!」
「痛い!」
「痛い禁止! あをつけて『会いたい』って言うのよ!」
「痛い!」
「あ・い・た・いね!」と都度訂正されます。
正直それどころではありません。何も考えられないので口から勝手に「痛い」という言葉が出るのに、そのたびに「禁止!」と言われ続けます。さらに助産師さんは痛がる私のために14時間めのソフロロジー音楽を再び再生してくれました。
音楽も、「あ・い・た・い」も、その時の私にとっては邪魔者でしかなく、むしろ余計なことをしてくれるなと自棄になった頃、ようやく私の出産は終わりを迎えました。
今思い返すとなんと滑稽な出産シーンなんだろうと笑ってしまいます。もしかしたらソフロロジー式分娩も、音楽も、「会いたい」も本当は必要なことだったのかもしれません。ただ、未来の私からあの時の私へ一つだけ言えることは、無痛分娩にすればよかったね、と後悔していることです。
(ファンファン福岡公式ライター/本田 すのう)