祖母が語った不思議な話・その陸拾肆(64)「洋間」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 母方の祖父が亡くなった時、葬儀場で久しぶりにいとこ十人が顔を合わせた。
 子どもの頃、長期の休みには皆祖父の家で一緒に遊んだので、懐かしい話に花が咲いた。

 ふと思いついて「洋間って覚えてる?」と尋ねると、皆微妙な表情になった。
 それは祖父の家にあった三畳ほどの三角形をした洋風の部屋だった。

 「あそこ、なんだか気持ち悪くなかった? 絨毯もカーテンも真っ赤で。ドアの曇りガラス越しに人影がよぎるのが見えたり…」と切り出すと、皆立て続けに口を開いた。

 「ウチの母さんは絶対入らないって言ってたよ。怖いことがあるからって」
 「ウチのお母さんも!」
 「ステレオが置いてあったろ? あれでレコード聞いてたら同じフレーズを繰り返したんだ『うしろの…うしろの…』って。盤面見ても傷はなかった」
 「かくれんぼで洋間に隠れたとき、壁の宗教画が突然落ちて来たんだ…風も入らないのに。あれはビックリしたなあ」
 「チロって犬がいたでしょ。一度洋間に連れて行こうとしたらすごく暴れたから諦めたことがあったのよ。あんなにおとなしかったのに」
 「洋間から兄貴の声が聞こえたんだ。笑いながら大きな声で話してるんで、『誰と話してるんだろ?』と思いながら開けると兄貴は一人で床に寝てたんだよ。あの日から一度も入ってない」

 出るわ出るわ、いとこ全員が奇妙な体験をしていたことが分かった。
 葬儀が始まるので中断したが、まだまだ話はありそうだった。

 葬儀を終え、火葬も済むと叔父・叔母と一緒に祖父の家に行った。
 祭壇に遺骨と卒塔婆をしつらえ、一段落したので聞いてみた。
 「あの洋間は何のために作ったのかな?」
 「父さんがえらくこだわってね。何故だかは話してくれなかったなあ」
 叔父は別に気にする風でもなくそう答えたが、叔母たちは口をつぐんでいた。

 せっかくの機会だと思い、二十数年ぶりに洋間に入ってみた。
 子どもの頃感じたよりも部屋は狭く暗かった。
 ステレオのコンセントは抜かれていてレコードは一枚もない。
 壁にかかっていた絵もなくなっていた。

 しばらく座って部屋を眺めていたが、ソファのシートと背もたれの間に布が挟まっているのに気が付いた。
 引っ張ってみるとずるずると出てきたのは細長く黒っぽい布…包帯だった。
 捨てるのも気味が悪かったので、元のように隙間に戻し部屋を出た。

………………………………………………

 実家に帰り着いて祖母にこの話をしたところ
 「おじいちゃんの家か…あんたが二歳の時にいなくなって大騒動したことがあったね。何度も探したはずの洋間で見つかったけど、それからが大変だった。自家中毒になって死にかけたんだよ」
 全く覚えていなかった。
 
 その翌年、誰も住む者もなく家は壊された。

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