祖母が語った不思議な話・その陸拾伍(65)「幻の本」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。今回は私が体験した奇妙な出来事です。

イラスト:チョコ太郎

 子どもの頃からずっと心にひっかかっていた漫画があった。

 それを読んだのは小学2年生の春、雨の夜のO歯科医院の待合室だった。
 漫画雑誌に掲載された読み切り作品だった。
 物語は奇怪な外見の捨て子にまつわる怖くて寂しいもので、独特の絵柄と相まって強く印象に残った。
 もう一度読みたくて一週間後に病院に行ったが、もう雑誌は廃棄された後だった。

 ここで大きな失敗に気が付いた。物語の印象が強過ぎて、雑誌も作者も…作品名すら覚えていなかったのである。
 病院に付き添ってくれていた祖母にも聞いたが覚えてはいなかった。
 小学校に行ってクラスの友達に聞いたが、知っている者はいなかった。

 中学、高校と環境が変わる度に端から尋ねてみたが誰も知らず、「子どもの頃の夢の記憶では」とも言われた。
 それからも馴染みの書店をはじめ、いろんな人に尋ねてみたが何一つ手掛かりがないまま二十数年が過ぎた。

 インターネットが普及しはじめた頃、“もう一度読みたいけれどタイトルの分からない本”の情報が集まるサイトを見つけ、ダメもとで覚えている情報を書き込むと数日してレスが入った。

 「気味の悪い赤ん坊を拾う話ですか…たぶん坂口尚さんの初期の短編で『青びょうたん』だと思います」
 
 それだ! 間違いない!

 お礼を書き込むのもそこそこに、タイトルと作家名で検索をかけた。
 だが公式ページにもファンの運営するサイトにも情報がない。

 諦めきれずにそれからもちょくちょく検索していると、数カ月後についに次のような情報を見つけた。
 「1970年の『タイガーマスク 5 ぼくらマガジンコミックス 春季号』に掲載された怪奇短編。単行本化はされていない」

 そんな!
 たった一度雑誌に載っただけとは。もう二度と読む事は叶わないのか…

 その日の午後、がっかりしながら街を歩いていると、いつ行っても閉まっている古書店が珍しく開いている。
 ふらふらと誘われるように中に入るとそこに信じられない物を見た!
 タイガーマスク 5… ぼくらマガジンコミックス …春季号!!!!!!!!!
 そこまで確かめると本をひったくるように掴んで慌てて代金を払い、飛んで帰った。

 部屋に戻ってページをめくると…あった! これだ、この話だ!
 長年のつかえが溶けていった。作品は怖くて哀しい傑作で、子どもの頃に感じた衝撃は間違っていなかった。

 なにか不思議な力が働いて出合わせてくれたとしか思えなかった。

これが現物です

………………………………………………

 その週末、祖母に見せようと思い雑誌を持って実家に帰ると、待ちかねていたような様子の祖母から紙袋を手渡された。
 「2、3日前にK町の古本屋の前を通った時、ひょいっと見るとワゴンで古い雑誌が売っててね。あんたが喜びそうだったから買っておいたよ」
 中に入っていたのは「タイガーマスク 5 ぼくらマガジンコミックス 春季号」だった。

 二十数年間探し求めた幻の本は、今書架に2冊並んでいる。

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