新・祖母が語った不思議な話:その拾壱(11)「辻占(つじうら)」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応え第3シリーズをお送りします!

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 小学2年生に上がった四月、うららかな日曜の昼下がり。
 縁側で宿題の絵を描いていた。
 テーマは「未来の北九州」、8割がた描き終えたが、空の部分で悩んでいた。
 飛行機にするか? 鳥の群れにするか?

 ふと目を上げると祖母が玄関を出るのが見えた。
 すぐに追いかけ「どこに行くの?」と聞いた。
 「刑部(おさかべ)さんという私の知り合い…というより恩人かな。その人にコレを届けようと思ってね」
 手には平たい紙包みを持っている。
 「それ、なあに?」
 「志ん朝のレコード」
 「へえ! 落語のレコードとかあるんだ」
 面白そうなので着いて行くことにした。
 恩人というのも気になった。

 バスに乗って30分、路面電車に乗り換え15分。
 高炉台公園近くにある赤い屋根の家の門を潜るとベルを押した。
 「はぁーい」
 中学生くらいの女の子が出てきた。
 祖母が名乗ろうとしたその時
 「入ってもらって」と奥から声がした。

 女の子に通された座敷には小さなおばあさんが座っていた。

 「刑部さん、お久しぶりですね。お変わりありませんか?」
 「はい。あなたもお元気そうで何よりです」
 「はじめまして!」
 「まあ! お孫さんも元気いっぱい」

 挨拶を終えると祖母はレコードを手渡した。
 「志ん朝の落語です。楽しんでもらえるとよいのですが」
 「ありがとう! とっても嬉しい」
 その時、気づいた。
 刑部のおばあさんは目が見えないんだ!

 それから1時間くらいしていとまを告げた。
 刑部さんは祖母に何か囁いたようだった。

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 「おさかべさん…目が不じゆうだったんだね。でもすごくかん(勘)がいいよね?」
 帰りの電車の中で祖母に話しかけた。

 「彼女は五歳くらいのときに高熱が出て、それが原因で視力を失ったんだけど…それから不思議な力? 感覚? を得たそうなの。今は引退したけれど、戦争が終わってすぐ占い師を始めてね。すぐに良く当たると評判になって、大阪や東京から観てもらいにくる人も多かったのよ」

 「…おばあちゃんもぎょうぶさんに占ってもらったの?」
 「助けてもらった…が正確かな。戦争がだいぶ酷くなった昭和二十年、食糧を探してこの辺りまで歩いて来たときに空襲があったの。他の人達と一緒に防空壕に走っていたら連れていた下の息子・真二…あなたの叔父さんとはぐれてしまってね。あちこちで火が上がってるけれど探しにいかなくては! と走り出そうとしたときに、四、五歳くらいの娘さんに手を引かれた小柄な女性が袖をつかんでこう言うの。『息子さんは町の東にある防空壕にいるから大丈夫。今あなたが行くと二人とも命がない』とね。その声には不思議な説得力があった。空襲が止むまで待って、一緒に東の防空壕に行ったら真二が泣きながら駆け寄ってきたのよ」
 「へえ! すごいね」

 「それから戦争が終わり、何年か経ってから八幡の駅前で再会したんだけど、不思議な事に声をかけてきたのは刑部さんだった」
 「どうして分かるんだろう?」
 「本人曰く、暗い中にいろんな色と形をしたものが見えて、それが一人一人違うんですって。それと声」
 「声か…」
 「刑部さんの占いは昔からある『辻占』という方法で、雑踏の中に立ち、そこでいろんな人の声を聞いているうちに、その中の特定の言葉が頭の中で光るんですって。それを繋げて意味を読み解くのよ」
 「ふ〜ん、ふしぎだなぁ。あ、帰るときなにか話してなかった?」
 「あ、そうだ!『お孫さんに虹がいいよと伝えて』と言われたのよ。どういうことか…分かる?」
 「!!!!!!!」

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 家に着くなり空の部分に大きな虹を描き込んだ。
 満足のいく仕上がりになった。
 学校でとても良い評価を受け、市の絵画展でも飾られた。

 この不思議で嬉しかった思い出は、昨日のことのように覚えている。

チョコ太郎より

 お読みいただき、ありがとうございます。「祖母が語った不思議な話」シーズン3、スタートいたしました。ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をお聞かせいただけると連載のモチベーションアップになりますので、ぜひぜひ下記フォームにお寄せください。一言でもOKですよ!

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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