初めての子育てに必死だった頃の事。長女に言われてショックだった一言がありました。気づきを与えてくれる言葉でもあったのですが、わが子に言われるとは思いませんでした。
食べない娘

私には長女、次女、双子の女の子の4人の子どもがいます。長女が2歳になった頃、なかなか食事をしてくれませんでした。
長女は赤ちゃんの頃から偏食の激しい子どもでした。とにかく何を作っても、食事に興味がないのか、ふらふらしてばかり。食事の時間は私にとって苦行のようでした。
素材の味を感じて欲しい、好き嫌いを作らないで欲しい。そんな思いから色々な料理を作りましたが、一口、二口でポイッとスプーンを放り投げてしまいます。
その日のメニューは、完熟トマトを使ったトマトソースパスタ。味付けは少々の塩だけですが、短めに切ったパスタに絡めたトマトソースは、今までで一番の出来でした。
「さ、食べよう」テーブルに新聞紙を敷いて、備えは万全です。
「あ~ん。ほら、美味しいよ~」椅子に座った長女にパスタを食べさせようとしますが、全く口を開いてくれません。
何で? どうして?
今思えば初めての子育てで、余裕を無くしていたのです。その日はどうしても食べてくれない長女に、やるせなさと思い通りにならない理不尽な怒りが沸いてきて、
「どうして食べてくれないの!!」と、私は長女の前で大泣きしてしまいました。
長女がの何気ない言葉とは…

「〇〇(娘の名)のほんとうのおかあさんはとなりのまちにすんでるんだよ」
ん? ほんとうのおかあさん?
唐突に出てきた「ほんとうのおかあさん」という言葉。
え? それって誰の事? 娘にとっての「おかあさん」って私じゃないの?
「それでね、ほんとうのおかあさんは〇〇といっしょにあそんでくれてね…」
「へぇ~そう」何て返事をしていても心の中では、なぜ? なぜ?の疑問ばかり。私ってほんとうのおかあさんじゃないのかなぁ、なんてしょんぼり思ったり。
「ね、〇〇はその”本当のお母さん”に会ったことがあるの?」
「うん、あるよ。となりのまちにいるんだよ」
「どんな人なの?」
「う~ん、ないしょ~」それでも、長女のおちゃらけた言い方に、重く感じていた私の気持ちもふと軽くなりました。
”本当の”って言葉は”娘の好きな”お母さんって事かな? と思ったからです。
それからの娘と私

それから変わった事と言えば、私の手抜き料理が増えた事。娘に見破られないように料理に苦手なものを入れるようになった事。一緒にいるのではなく、一緒に遊ぶようになった事。
例えばカレーに入れる野菜だって、クタクタに煮込むんじゃなくて野菜ジュースで代用したり。
「ね、コレ辛いかなぁ。〇〇にはまだ早いかなぁ」言い方も「食べなさい」じゃなく、ちょっとだけ背伸びしたい気持ちをくすぐる言い方に変えてみました。
毎回成功はしませんでしたが、以前よりも食べる種類も増えて嬉しくなりました。そして、私自身の意識が変わった事で子育ての在り方も変化したと思います。
”本当のお母さん”の正体は結局謎のままだったけれど、長女は未だに”本当のお母さん”と私に言った記憶があるそうです。少しだけ後ろめたい気持ちがあるのかも。
そして妹の双子達は、「本当のお母さん」と同じように想像の人物「秘密の博士」という知り合いがいるなんて言うことも… お母さんに怒られると娘たちの中で途端に出現する謎の人物達。私も会ってみたいものです。
(ファンファン福岡公式ライター/ハギワラヤヨイ)


