息子の公立高校合格発表の日。合格圏内のはずだった志望校が、まさかの不合格。私の頭の中は真っ白で、息子にかける言葉も見つかりません。そんな重い空気をひとことで変えてくれたのは、ママ友であるMくんのお母さん。私が今も忘れられないそのエピソードを紹介します。
合格圏内だった高校が…
公立高校合格発表の日、私と息子は一緒に家を出て受験した高校へと向かいました。担任からも塾の先生からも合格圏内と言われていたし、生徒会役員なども積極的にこなしていたので内申書も悪くはないはず。本番の試験でも息子は手応えを感じていたようだったので、合格はほぼ間違いないと本人も私も思っていました。
しかし結果は不合格。
合格番号が貼り出され、息子の受験番号の近くを目で追っていったのですが、無情にも番号はなし。ショックのあまり、息子も私も呆然と立ち尽くしたまま。そこに響く合格者の歓声が別世界の人の声のように遠く感じました。
同じ高校を受験した息子の友達が集まってきましたが、部活で仲の良かったMくんを合わせ数人が不合格。ショックを隠し切れない表情で、泣き出してしまいそうな子もいました。
合格者はその場で手続きがあって残るため、不合格だった子達と、一緒に来た保護者の私とMくんのお母さんのみが一足早く帰るかたちになりました。
言葉が見付からない情けない母
私は息子が進学する私立高校の入学準備のことに気を取られてしまっていたのですが、一緒に歩いていると思った息子は、私のかなり後ろにいることに気付きました。悔し気な表情で無言のまま足取り重く歩いてくる姿に、私は胸が締め付けられる思いでした。
「本当に良く頑張ったと思うよ」
「落ち込まない、落ち込まない、なんか美味しいものでも食べに行こうか」
「合格した人との差なんて、きっとほとんどなかったはずだよ」次から次へと励まそうとする言葉は浮かんでくるものの、
「何か違う、こんなありきたりの言葉では通じない…」と、結局肝心な時に何も言えない無力で情けない自分が惨めでした。
空気を変えたママ友のひとこと
そんなとき、その場にいたMくんのお母さんがいつも通りのクールなトーンで言ったのです。
「右から行くか、左から行くかだけの差じゃない? 本当のゴールはまだまだ先でしょ?」
その言葉に一瞬、みんなが沈黙。言葉の意味をかみしめていると、モヤモヤしたものがスーッと晴れ渡っていくような心地良さを感じました。
それは子ども達も同じだったようで、暫くすると息子も友達も少しずつ明るさを取り戻し、学校へ結果報告に行く頃には友達とふざけ合ういつも通りの笑顔が見られるようになりました。大学にしても就職にしても、どこを目標と考えるかは本人次第。
目標へ右から行くか左から行くかという違いにすぎないのだと心から納得できる言葉でした。そんな言葉がサラッと言えるママ友に、私は尊敬と感謝の思いを今も抱き続けています。
息子もMくんも私立高校に進学し猛勉強。高校受験のリベンジを果たし、それぞれ第一志望の大学への合格も果たしました。あのとき、あの言葉がなかったら、もしかすると息子は不合格のショックから立ち直っていなかったかも知れません。立ち直れたとしても、それには少なからず時間を要していたはずです。
「右から行くか、左から行くかだけの差じゃない?」
凍り付いたような空気をほぐしたママ友のひとこと。絶望からみんなを救った、まさに魔法の言葉として忘れられない思い出となっています。
(ファンファン福岡公式ライター/Natsuki)