祖母が語った不思議な話・その漆拾弐(72)「見える?」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 私が高校に進学した春。
 入学式で講堂に全生徒が集まった時、ずっと気になっていた友人の顔を見つけた。
 小学校のある事件以来、音信不通になったK君だった。
 
 式が終わると同時にK君を探したが、三々五々に引き上げる生徒に紛れて見失ってしまった。
 結局K君に会えたのは1週間後、食堂で昼食のパンを買う列に並んでいる時だった。

 「お久しぶり!」と声をかけるとK君も覚えていたようで懐かしそうに笑った。

 昼食を食べながら小学校で見かけなくなった事について尋ねてみた。
 「H山への遠足の後、体調崩したって聞いたけど?」
 「うん。心臓に生まれつきの欠陥があるのが分かってちょっと離れたO病院で手術したんだ。結構長い入院になったのと親  父の転勤も重なって、中学はそっちの学校に入ったから…小学校の友達にはさよならも言えなかったよ」
 「そうだったんだ。てっきりR旅館の事件が絡んでるのかと思ったよ。あそこで何か見てたよね?」
 「R旅館…覚えてないなぁ。それより見る?」
 K君はそう言うとシャツを開いて胸を見せた。
 縦に大きな手術痕が走っていた。

 クラスは違ったが、それからも時々休み時間に話したり昼食を共にした。

 ある日、下校しようとしていたらK君が廊下で待っていた。
 高校は高台(と言うより低山)にあり、当時走っていた路面電車の駅までは広い緩やかな道と狭くて急な山道とがあったが、K君の希望で山道を下った。

 あれこれ話しながら下りて行くと少し開けた住宅地用に盛り土をした所に出た。
 その瞬間K君の足が止まり、前方の地面を指差した。
 「アレ、見える?」
 「え?」
 何も見えなかった。

 K君はうなずくと、私の手を引き元の道を戻りはじめた。

 広い道を下り、駅近くの喫茶店に落ち着くとK君がおもむろに言った。
 「しばらくは山道は通らない方がいいよ。あそこ今、気持ち悪い」
 「さっきの所に何があったの?」
 「数日前に通ったとき黒い煙みたいなのが地面から湧いてたんだ…何かの自然現象かもしれないと思ったから、一緒に来てもらったんだ」
 「全然見えなかったよ。いつも見えるの?」
 「いや、これが2回目」
 「…1回目はR旅館だね! やっぱり覚えてたんだ」K君はばれたかと、頭を掻いた。

 翌日の5限目の授業中に救急車やパトカーの警笛が聞こえてきた。皆に待機するように告げ出て行った教師は戻って来ず、6限目も自習になった。
 「山道の方で大規模な地滑りがあった。しばらくは広い方の道を使うように」
 帰りのHRで担任が告げた。

 二人でこっそり見に行くと盛り土をしていた所は陥没、見事な大穴が開いていた。

 「K君のカンが当たったね!」
 「うん…でもまだ終わらないと思う」
 「何故?」
 「…今日、君の教室の中でも見たんだ」
 この言葉は現実のものとなった。
 
 陥没事故から2カ月の間にクラスの複数人の家族が考えられないような事故で次々と亡くなったのだ。

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 「K君は生まれつき心臓が悪いから、他の感覚が身を守ろうと研ぎ澄まされているのかもしれないね」
 この話を聞いた祖母の言葉に、ひどく納得がいった。

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