11/28まで舞台公演「雨夜の星屑」 元スパガの宮崎理奈さん主演

 福岡市を拠点にするガールズエンターテインメントユニット「トキヲイキル」がプロデュースする舞台公演「雨夜の星屑」が11月24日、ぽんプラザホール(福岡市博多区)で開幕しました。11月28日(日)まで全9公演の予定です。本公演を毎年行ってきたトキヲイキルですが、今年はコロナ禍に加えメンバーの個人としての仕事の都合などもあり、本公演開催を見送りました。代わりにアイドルグループSUPER☆GiRLS(スーパーガールズ、スパガ)の元メンバー、宮崎理奈さんを主演に招きプロデュース公演として今回開催しました。初日開幕を前にAB両チームのゲネプロを観てきました。また演出・音楽を担当した柏原収史さんの話も聞きましたのでリポートします。

目次

人間の生々しさを伝えたい

撮影:seiji.s

 「この作品を観て、『ここまで人間はひどくない』と思えた人は今、幸せなんじゃないかな」

 取材の最後に柏原さんが発した言葉をいきなり持ってきますが、今回の作品を端的に表現していると思います。作品はハッピーエンドではありません。全体にどこか重苦しさがありますが、決してバッドエンドでもありません。

撮影:seiji.s

 ゲネプロを2回観たのですが、受け取るメッセージは1回目より2回目が増えました。

 無駄な台詞(せりふ)が少ないのかもしれません。一つ一つの言葉がとても慎重に選ばれていることに気が付くと新たなメッセージを感じるのです。

 エダカヨさん(ユニット「NO-STyLe-GArden~ノスタルジア~」主宰、福岡県出身)の脚本は、トキヲイキルの公演では初めてです。柏原さんは「これまで硬派なテーマでも『結果ハッピー』な要素が多かったけれど、それを外れてもいいと(エダカヨさんに)オーダーをしました。『こういうトキヲイキルもある』というのを見せる新しい挑戦」と今作品を位置づけしたうえで、「人は闇の部分を隠しながら生きていて、素の自分だけが自分を見ているのだけれど、隠しきれない闇が時折あふれ出す。そんな人間の生々しさを会話劇として表現することを狙った」と話します。

撮影:seiji.s

「厚意を押し付けないで」

 舞台の設定も絶妙です。製造工程の末端の工場なので、作っている物が何なのか、最終的に何になるのかも分からないけれど、従業員は日々「誰か偉い人が間にたくさん入った末に作れって言われた何かの部品の一部となるであろう変な形の金属」を作っています。

撮影:seiji.s

 それは、「何のために生きているのか分からない。生きたいのか生かされているのか分からない。でも生きなきゃいけないという暗黙のルールに縛られている」従業員、そしてリアルな人間の姿にシンクロするのです。そこに夢や希望、意欲などありません。 工場は経営が苦しく本社では縮小の話も出ているけれど社長は何とか守ろうとしています。そんな工場に「綺麗(きれい)ごと」が好きな待鳥夢が「換気係」として本社から派遣されます。夢がトリックスターとなり、従業員が抱える「闇の部分」が徐々にむき出しになってきます。

撮影:seiji.s

 その闇に対して「正論」や「正義」、「厚意」が提示されますが、それらも抱えた闇の反動の産物として描かれます。えぐるような人間描写は、その是非は別にして、観客の受け止め方が大きく分かれるかもしれません。

トキヲイキルの進化と新たな可能性

 今作品を「新しい挑戦」と位置付けた柏原さん。「これまで構築されたパターンや毛色を守っていくことも、例えばビートルズのように変わっていくことも、結果としてお客さんが喜んでくれることを目指しているのは同じ」と話します。

撮影:seiji.s

 また「妙に声を張るのではなく、映画を撮っているような気持で演技してほしいと出演者に伝えたのですが、それによって今までにないぐらいに生き生きしだした役者がいるなど、新しい挑戦で新しい発見もあった」と今後のトキヲイキルに新たな可能性を見出した様子です。

撮影:seiji.s

 昨今、「自己責任」を掲げて弱者や敗者を切り捨てる風潮が強まっています。そのような世相の中で本作品の根底には包み込むような「温かさ」があります。銃後の女性や敗者の再生、ダムと限界集落など硬派なテーマを柔らかく優しく演じてきたトキヲイキル(と劇団トキヲイキル、レギュラー客演メンバー)ですが、今回はかなりストレートな演技で脚本と演出に応え、観客に問いかけてきます。それは俳優としての力が進化した証だと感じました。

撮影:seiji.s

雨夜の星屑

 俳優の好演が目立つ今作品ですが、中でも香月ヒナ役の宮崎理奈さんと大城充希役の森岡悠さん、待鳥夢役の大滝紗緒里さん、黒葛原ユリカ役のcheluさんの4人の演技が柱として支えています。この4人が軸となる会話には特に耳を澄ませてほしいと思います。

撮影:seiji.s

 歌手・森恵さんの作品に「いつかのあなた、いつかの私」という一曲があります。

  「誰かが明けない夜はないと声を大にして歌っている、それなら止めどなく続く涙はどうして、どうして」と序盤で歌うその曲は「例え願っても、祈っても、泣き叫んでも、越えられそうもない深い雲が覆い尽くすなら、あなたが私を抱きしめた時のように、決して消えることのない灯りに、いつか、いつかなりたい」と終わります。ゲネを観終わった後にこの歌が浮かんできました。描く世界は今回の舞台とどこか重なります。理不尽と綺麗事が溢れる世の中で生きる意味を見失っても、「それでも生きる」ことは永遠の命題なのかもしれません。

撮影:seiji.s

 失意のヒナを支えようとする充希の温かさはもちろんのこと、それぞれのカタチでヒナを支えようとしている人たちの心は目には見えませんが、ヒナには一番大切なことで、生きる意味にもなりえる「雨夜の星屑」だったのではないでしょうか。
 そして私たちもまた、誰かに心を重ねようと、少しでも寄り添おうとすることで、「雨夜の星屑」になれるのかもしれません。

 観劇後、みなさんはどう感じるでしょうか。

撮影:seiji.s

 今までにないトキヲイキルの舞台です。

 一人でも多くの人に見てほしい奥行きが深い作品でした。

ライター:しげむら

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