私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学3年生の頃、学校では「コックリさん」が大変な話題になっていた。
ある漫画から火がついたもので、いろんなやり方があるみたいだったが一般的な方法は、ひらがな五十音と◯×、そして鳥居を書いた紙に十円玉を置き3人が人差し指を軽くのせる。「コックリさん、コックリさん、おいでください」と声を合わせると力を入れていないのに十円玉が動きだし、いろんな質問に答えるというものだった。
みるみるうちに異常なほどのブームとなり、教室のあちこちで毎日のようにコックリさんが行われるようになった。
「おばあちゃん、コックリさんって知ってる?」
とても興味が沸いたので祖母に聞いてみた。
「今そんなものが流行ってるのかい? 私が子どもの頃からあったよ。“狐狗狸様”って言ってたね」
「本当に霊みたいのが来るの?」
「あはは! 怖いかい? あれはね、知らず知らずのうちに力が入って十円玉を動かしている自己暗示か、わざと動かしている人がいるかだと思うよ」
「へえ! そうだったんだ」
「でも、ちょっと不思議なことはあったよ。あれは…終戦の年だったね」
そう言うと祖母は語り始めた。
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昭和二十年の夏、空襲警報を受けて祖母は町内の人たちと防空壕にいた。
八月に入ってからの大空襲で主だった施設は焼き尽くされていた。
壕の中は蒸し暑く、ただ時間をやりすごしていた。
ふと気が付くと若いお母さんたちが3人、頭を寄せて何かをやっている。
近づいてみると五十音や◯×を書いた布を広げている。「狐狗狸様」だ。
3人が行っていたのは人差し指を立てて寄せた上におちょこを乗せるという方法だった。
「うちの人は無事ですか?」
「私の実家は燃えていませんか?」
順番にいろんな事を尋ねた。
いつの間にか壕の中の全員が夢中で見守っている。
そして誰もが気になっている事を年かさのお母さんが問うた。
「この戦争はいつ終わりますか?」
おちょこはすぅーっと動いた。
「す…ぐ」
「日本は…勝ちますか?」
「ま…け」
「そんなまやかしなんか信じんぞ! なにが狐狗狸様じゃ!」
ずっと見ていた年配のTさんがそう叫んだ瞬間、おちょこはすごい勢いで跳ね上がりTさんの左目に当たってはじけた。
それから十日ほどして敗戦を迎えた。
命に別状は無かったが、Tさんの左目はどんどん白くなり、ついに半年ほどして見えなくなった。
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「口うるさくて有名だったTさんは、それ以来すっかりおとなしくなってしまったよ」
「…やっぱりコックリさんやるのはやめた!」
「あはは! 怖くなったかい?」
笑いながら祖母はそう言った。
それから数週間後、隣町の中学校で全国ニュースになるほどの集団パニック事件が起こり、学校ではコックリさんは禁止となった。