祖母が語った不思議な話・その捌拾陸(86)「星の夜」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 3歳のとき、死にかけたことがある。

 冬の深夜、40度を越える高熱が出た。
 家族はあわてて電話をかけまくり、1時間後やっと診てくれるM病院を見つけた。
 病院まではかなり距離があったため、父の背中におぶわれラビットスクーターで家を出た。
 しばらく走るとスクーターの振動と熱と眠さで意識が遠くなった。

 「?」
 次に目を開けたときには満天の星を見上げていた。
 どうやら仰向きで道路に寝ているらしい。
 どうしてこうなったか分からないまま動けなかった。
 ただ、まだ舗装されていない地面が冷たくて気持ちがよかった。

 「このまま眠ると死ぬのかな…」
 ぼんやりそう思いながら星空を見上げていた。
 まさにその時、誰かがのぞき込んだ。
 そして、そのまま抱え上げられた。

 母だった。

 後から聞くと、カーブを曲がるときに父の背中から抜け落ちたらしい。
 焦っていた父は病院に着くまで気が付かなかったそうだ。
 診察の結果は自家中毒に風邪が重なっているとのことだった。

 不思議だったのは振り落とされてからそんなに時間が経っていないのに、母が飛んで来たことだった。
 「なぜ落ちたことや場所が分かったんだろう?」
 ずっとそう思いながら尋ねる機会がないまま、母は若くして逝ってしまった。

………………………………………………………………

 社会人になって20年くらいたった春、思い立って祖母に聞いてみた。

 「あの晩のことはよく覚えているよ。あんたが家を出てしばらくするとお母さんがオーバーコートを着こんでいる。どうしたのかと尋ねると『今、庭が光ってあの子の声が聞こえました。ちょっと行ってきます』と言うなり走って出て行ってね。しばらくしてあんたを抱いて帰って来たんだよ」
 「そんなことが…母さんはなぜ場所が分かったんだろう?」
 「不思議だったので私も尋ねたんだよ。『最初からその場所が頭に浮かんだ』って言ってたよ」
 「すごいね」
 「母親ってのは子どものことになると神がかることがあるんだよ。お母さんに感謝しなきゃね」
 話し終えて二人で仏壇に線香をあげた。

 母の命日だった。

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