私は短期大学を卒業後、幼稚園の先生として働いていました。まだ新卒で初々しい私。先生としての業務はもちろん、行事ごとにある保護者とのお酒の席も仕事のひとつ。話上手な先輩先生の中、私も保護者の方を楽しませなければいけないという感覚になり、一生懸命盛り上げていました。そんな私は卒園式後の謝恩会で保護者から思わぬことを言われたのです。
謝恩会は大忙し!
勤めていた幼稚園の謝恩会は、卒園式の夜に居酒屋で行われ、一晩中盛り上がる会でした。
その年、私は卒園児クラスを受け持っており、謝恩会にはクラスの保護者がたくさん来てくださいました。私は普段から“若くて明るくて元気”そんなイメージの先生だったようです。
まだ下っ端でしたので、謝恩会でも「保護者が楽しめるように! 他の先生が動く前にまず自分が動く」それが鉄則でした。会話を盛り上げ、グラスが空けば注文し… お店のスタッフにも負けない忙しさです。
運動会、お遊戯会… 1年を振り返った話もしましたが、大人だけの席。お酒も進むと
「先生、彼氏いないの?」
「ぶっちゃけ仕事大変じゃないの?」なんて話にもなったり。和気あいあいと時間が過ぎていきました。
それは… 褒められているの?!
すると、あるお父さんが、私にこう話し始めました。
「先生さぁ、もったいないよね。幼稚園の先生やってるのもったいないよ! 可愛いし面白いし…」
「いや、全然…」私が照れながら謙遜していると…
「先生モデルとかさ…」
「イヤイヤそんな…」表面では謙遜していましたが、モデルなんて言われたことのない私は、内心嬉しくなっていました。
しかし、その話には思いもしないオチがついたのです。
「お笑いとか! 絶対向いてる!」
周りの方々も
「わかるわかるー!」と賛同し会話が膨らみ始めたのです。
お笑い? 私は、謙遜すべきなのか「お笑いならいけます!」と言うべきなのかわからなくなってしまいました。
「参観日も面白いしね!」
「うちの子も、先生面白いって言ってたわ!」等話が広がり
「先生どう?」と言われ、私は
「幼稚園の先生が夢だったので…」とつい真面目に答えてしまいました。
周りの保護者は「そっかそっか」と温かい眼差しで頷いてくれましたが、言い出したお父さんは
「でも、もったいないよなー」とまだ何か言いたげな様子でした。
そんな道もあったのかも
後々考えると、子ども達がくれるお手紙も「かわいくて、おもしろくて、だいすき」と書かれていることが多々ありました。他の先生は
「かわいい、きれい、ピアノが上手」と言われる中、私は「面白い」が評価の上位に入り、夢だった幼稚園の先生よりもお笑いが向いているように見えているなんて…!
面白いことをしているつもりはないんです。
でも、子ども達に
「先生、○○(女性芸人)に似てる!」と言われ、ブロックのカメラを持った子どもパパラッチに追いかけられたり、ピアノを間違えれば子ども達が笑ってフォローしてくれたり… 子ども達と同じ目線で楽しめる“先生”が天職だとその時は思っていました。
でもこれは15年前のお話。今は若い頃の私に「お笑いの道もあったかもよ!」と言ってあげたくなります。もしその道を選んでいたら、家事育児の大変さ、夫への愚痴… そんな今とは違う面白い世界が広がっていたかもしれない。こんな夢を見ること皆さんもきっとありますよね。どの道を選んでもきっと険しい道。でも違う道を進む自分も、フッと見てみたくなったのでした。
(ファンファン福岡公式ライター / ちょこまま)