当時4歳の息子が、幼稚園に入園したときの話です。インドネシアに住んでいたので、2歳からプレスクールに通い、4歳から正式に幼稚園に入園。入園式といっても日本のような堅苦しいものではなく、歓迎会のような雰囲気です。息子もその幼稚園には慣れており、お友達や先生にも懐いていました。ところが思わぬ事件が起こったのです。
入園式は和やかに…?
和やかな雰囲気で入園セレモニーは行われ、まずは先輩の5・6歳組が歓迎の歌を披露。続いてこれから入園する息子たちが、お返しの歌を披露するために舞台袖でスタンバイします。
でも私はスタンバイ中の息子の顔を見た瞬間。「これはマズイ」と思いました。今までに見たことのないような不安と緊張と怯えが混ざったような、母である私も初めて見る顔をしているのです! まず思ったことは、「あの子、やりきれるのか…?」
そんな母の不安をよそに、プログラムは進行し、息子たちの出番に。
息子の“ヤバイ顔”を見てしまった母としては、「母を見たら絶対に泣き出すに違いない」と、他の父兄に隠れて顔を見られないようにしていました。そんな努力もむなしく、壇上にあがって、私の姿を発見した息子。
その瞬間、そこでぴたりと動かなくなってしまったのです。
本来立たなければいけない場所よりも手前で固まってしまい、次からくる子たちが困惑します。先生が息子に対し
「指定の場所に移動しなさい」と指示するも、岩のように固まった息子は全く動きません…。
岩になった息子
周りの父兄はざわざわ、クスクス笑いだす人も。
それもそのはず、彼は今にも泣きだしそうな、怒ったような、なんともいえない表情に加え、顔が真っ赤になっていたのです。
さらに、そのころ頭をバリカンで丸めていた息子は、小さいお坊さんが歌を歌う事に抵抗しているような、なんとも面白いことに!
母である私も、心配どころか笑えてきてしまったのですが、「どうか今日まで練習を頑張ってきた他の子どもたちに迷惑がかかりませんように」と祈るばかり。
先生は岩息子を放置し、空いてしまった隙間に他の子を入れ込むことで対応し、歌のお披露目は何とか無事(?)に終了しました。
お披露目は2曲あったのですが、歌の最中も固まったまま、微動だにしない息子。怒ったような、泣きたいような真っ赤な顔をしてまるで地蔵のようです。
会場では、先生は苦笑、父兄は爆笑となったのでした。
終了後、先生の言葉とは?
歌が終了すると、舞台袖にはける瞬間ダッシュで母のもとへ来る息子。静止する先生を振り払って、私に抱きつき大泣きです。きっと緊張の糸が切れてしまったんだと思います。
楽しく遊んでいても、初めて会う人に話しかけられると、とたんに固まってしまう息子にとって、たくさんの人の前で歌うなんてことは、考えられなかったのかもしれません。
他の子が上手にお披露目できた中、わが子だけそんな状態だったので、心配になってしまったのですが、担任の先生は
「彼は頑固だけど、自己主張のできる素晴らしい精神の持ち主よ。人に流されてしまう時代にそのような考えは大切。その個性を伸ばしてあげてね!」と、むしろ感動したようににっこりと褒めてくれたのです。
なんでもポジティブに考えるインターナショナル校に、息子を入園させてよかったと思った瞬間でした。
そんな彼も今は10歳。歌の発表も、人前でのスピーチもできるようになりましたが、ステージに上がる前は緊張して夜も眠れないほど。
そして、壇上での“ヤバイ顔”は今も健在です。
(ファンファン福岡公式ライター / Maiko)