一人で子どもの相手ができない夫は、息子とマンツーマンで公園に送り出しても30分で帰ってくるダメパパ。ところが、息子の誕生会に義母が訪ねてくると、珍しく一緒に相撲をとりはじめ…。意外な光景に驚く私の横で、義母がしみじみ語り出した話にモヤモヤが止まらなかった体験です。
息子と2人きりで遊べない夫
息子が2歳頃の話です。私の夫は子どもとマンツーマンで遊べない人。私が一緒にいないと息子の相手がまともにできません。休日の公園で、よそのパパが子どもと2人きりで遊ぶ姿を見るたびに、私はうらやましくて仕方がありませんでした。
ある時、雑誌で〈休日はパパと子どもが外で遊んでいる間に掃除機をかける〉という記事を読み、ひらめいた私。
「最近ボール蹴りが上手になったから、1時間くらい公園で相手をしてやって。その間に掃除機かけるから」と、ほぼ強制的に夫と息子を家から追い出しました。
ところが、わずか30分で2人は帰宅。
「疲れた~!」と大げさにアピールする夫の後ろで
「もっとあそびたかったのにぃ!」と息子が口をとがらせています。公園までは往復10分。つまり遊んだのは正味20分…。
私はため息しか出ませんでした。息子も二度とパパと2人で遊びに行こうとはしませんでした。
義母に親子相撲を披露
そんな時、迎えた息子の2歳の誕生日。義母や義妹もやってきて、わが家で誕生会を開きました。ご馳走とケーキを食べ終え、プレゼントをもらってテンションが上がった息子は、突然
「パパ、お相撲とろう!」と夫におねだり。実はふだん、息子と私は相撲をとることがあるのですが、今日は私が忙しくしているので、夫に白羽の矢が立ったのでしょう。
「えっ? 相撲?」と驚く夫。さて、義母や義妹の手前、いつもなら面倒がる夫がどうするだろう? 私は黙って片付けをしながら、様子を伺っていました。
「お兄ちゃん、ご指名だよ!」と義妹。
「ほら、相手してあげなさいよ」と義母。すると夫は
「仕方ないなぁ」と渋々立ち上がり、息子と相撲をとりはじめたのです!
初めて見る光景に私が言葉を失っていると
「お相撲が始まったわよ!」と義母が満面の笑みで私を振り返り、上機嫌で2人に声援を送りはじめました。
義母のうれし涙にモヤモヤ
義母と義妹の大声援のなか、息子は歯を食いしばってパパに何度も体当たり。夫も手加減しながら、かんたんには負けないぞと息子を投げ飛ばしています。にぎやかに繰り広げられる親子相撲に違和感を覚えながら、私は片付けを終えると義母の横に座りました。すると、義母は遠い思い出を探るように、ゆっくり語りはじめたのです。
「おじいちゃんは子どもの相手が本当に下手な人でね…、子育ては大変だったけど、あの子は子どもの相手をちゃんとしてあげて…、いいパパになってくれて本当に良かった」見ると、親子相撲を見守るその目に、うれし涙を浮かべています。
義母はこれが普段の姿だと信じたのでしょう。しみじみと感慨にふける義母に水を差すのが申し訳なくて、私は反論することができませんでした。これを機に面倒見のよいパパに変わってくれたら、と淡い期待を抱いたからでもあります。
でも、残念ながら夫が息子と相撲をとったのは、後にも先にもこの一度だけ。義母が亡くなると、もう格好つける必要もなくなったようです。その後、妹が生まれ、子どもたち2人が大きくなった今も、夫は子どもたちと向き合うのが下手なまま。
あの日、良きパパを演じた夫と、それに涙した義母を思い出すたびに、私は今もモヤモヤがよみがえってくるのです。
(ファンファン福岡公式ライター / 繭子)