その日、息子は「1/2成人式」と呼ばれる、少し特別な10歳の誕生日を迎えました。家族3人で自宅でお祝いしていたのですが、予想外の出来事に誕生日パーティーどころではなくなってしまったのです。
10歳のお誕生日おめでとう!
「10歳の誕生日は、今までのどんな誕生日よりも特別な日」と学校の先生や、友人から聞かされていたため、息子は朝から楽しみにしていました。
夕方から自宅でパーティーを始めました。定番の歌を歌い、記念写真を撮り、息子の好きなケーキを食べ… それはいつものリビングルームですが、幸せいっぱいの空気が流れていました。プレゼントは、人生ゲーム! 早速家族で遊びます。それはそれは大いに盛り上がり、息子も楽しんでいました。
本当に楽しくて、自然と2回戦目が始まりました。しかし、その時私は異変を感じます。じわーっと下腹部が生温かくなるのを感じたのです。表情は笑顔のまま、心の中で「えっ、おもらししちゃった?」と気が気ではありません。私は2人に不安を気づかれないように立ち上がり
「トイレに行ってくるね」とだけ言ってその場を離れました。
お祝いから一転、救急搬送へ
トイレへ向かう廊下を歩きながら、私の頭の中はグルグルとしていました。私のお腹には赤ちゃんがいたからです。出産予定日はおよそ2カ月後。お腹が大きくなってきて、膀胱が圧迫されたための尿もれか、はたまた破水か、私は焦りました。
でも、すぐに確信しました。1歩、2歩と歩みを進めるだけでどんどん増してくる生温かさ。「これは尿もれなんかじゃない」と、もう不安しかありませんでした。私はトイレに入り、大声で夫を呼びました。
「なに?」とのんきにやってきた夫に、私はとにかく起きていることを説明したのです。
それからは病院の夜間受付に連絡し、何をどんな手順で進めたのか覚えていないくらい、私の頭は真っ白でした。急いでかかりつけの産婦人科を診察した結果
「前期完全破水」
「陣痛抑制剤を使いながら出産に備える」と言われ 、設備の整った大きな病院に救急車で運ばれることになりました。
息子はわけもわからずゲームを片付け、急いで外出の準備をしたそうです。そして急遽、実家に預けられましたが、その時も文句1つ言わなかったそうです。
新しい命の誕生
その2日後、10歳年下の小さな妹が誕生しました。息子は面会に来てくれましたが、NICUに運ばれた赤ちゃんに会うことはできません。残念がっていましたが、かわいい妹のため、自分が生まれた時から大事にしているクマのぬいぐるみを
「赤ちゃんにあげる」と置いて行ってくれました。
台無しになってしまった自分の誕生日のことなど一言も言わず、その後も、入院中の妹のため度々病院に足を運んでくれた息子。
「早く退院してね」と手紙を書いてくれたり、廊下まで聞こえる赤ちゃんの泣き声に
「○○が一番大きい声で泣いてるね」と気にかけてくれたりしました。いつの間にか優しい兄の顔になっている息子を見て、私は胸が熱くなりました。
優しい息子
あの日を思うと、私は反省しても仕方ないのに反省しています。息子も今では笑って
「せっかくの10歳の誕生日だったのにな」と冗談めかして言いますが、その言い方や表情からは、それ程の不満は感じられません。
息子の態度に私は救われていますが、心から申し訳なかったと思っているので、10年後の20歳の誕生日には、息子の成人と娘の1/2成人式のお祝いを盛大に、そして必ず成功させようと心に決めています。
(ファンファン福岡公式ライター / kaeru)