私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
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「困ったな…どっちに行ったら帰れるのかな…」
四歳になったばかりの祖母は、秋深い森の中で完全に迷っていた。
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その日、祖母は母に連れられて山の近くに住む親戚の家に来ていた。
母親はずっと親戚夫婦と話をしており、退屈した祖母は外に出た。
小川沿いに少し行くと石段のある小山にぶつかった。上っていくと古い神社だった。
横には小さなお稲荷(いなり)さんもあった。
そこでお参りした後、裏道から降りて行くと白い花がたくさん咲いている所に出た。
夢中になって花をつんでいるうちに道から外れ、来た方向も分からなくなった。
そこは暗い森の中で、あちこち歩きまわったが道は見つからない。
陽も暮れてきたし、早く帰らないと母が心配するに違いない。
「?」
泣きそうになったとき、草むらの中で何かが動いた。
「カサカサ」
草を揺らしながら移動している。
反射的に祖母はそれを追って走り出した。
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しばらく追いかけると、突然道に出た。
これで帰れる!
嬉しさに急ぎ足で進む祖母の横を、何かがついて来る。
祖母が足を止めるとそれも止まる。歩き始めるとそれも動く。
草が深くてよく分からないが小さな動物のようだった。
楽しくなった祖母は、それと足並みをそろえて歩き、村が見えるところまで無事帰って来た。
向こうから祖母の母と親戚の叔母さんが走ってくるのが見えた。
「キューン」
その瞬間、祖母の横を茶色い動物が走り抜けた。子ギツネだ!
走って行った先のススキが原には母キツネと兄妹たちが待っており、一緒に山の方へ消えて行った。
「あそこはよく人が迷う森なんだって。キツネが助けてくれたのかもしれないね。お礼に行かなきゃね」
話を聞いた母はニッコリ笑ってそう言った。
翌日、山の入口には干した魚を、神社のお稲荷さんには油揚げを供えた。
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「帰りがけに見たらどちらも無くなっていたねえ。あの時、子ギツネも道に迷って心細かったから一緒に歩いたんじゃないかと私は思うよ」
祖母が聞かせてくれた、人と動物が今よりずっと近かった時代の話である。
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