ある日、自治体のごみ置き場の鍵開け当番をうっかり忘れたがために、近所の男性から怒鳴られ続ける羽目になった私。知恵を絞ってその場を逃れようとしますが…。ご近所で起きた恐怖の事件。その全貌をお届けしたいと思います。
くたびれきった月曜日に起こった悲劇
私は男の子2人を育てるワーママ。土日は子どもに振り回されるので、週はじめはいつもグッタリです。事件の起こった日はそんな月曜日の朝。私が朝の家事をこなしていると、ごみ袋を持って出社したはずの旦那が目の前に現れ、こう言いました。
「ごみ置き場、鍵閉まったまんまなんだけど」その瞬間、まさに血の気がサーッと引いた私。今週のごみ置き場の鍵当番はうち! 私の自治会ではご近所10件ほどの戸建て住宅で1つのごみ置き場を利用しており、交代で鍵開け当番を担当するルール。
本来なら6時に鍵を空けなければならなかったのですが、時刻はすでに7時すぎ! 慌てて鍵をひっつかむと、私と旦那は全速力でごみ置き場に向かいました。ごみ置き場の扉の前には中に入れられなかったごみ袋の山。そして山の前には恐ろしい形相で仁王立ちする、白髪頭のおじいさんの姿が…。
怒鳴られ続ける私が絞り出した対処法とは?
男性は怒り心頭で
「なんで鍵を開けない!」
「非常識にもほどがある!」と次々と罵声を浴びせてきます。私と旦那は何度も何度も謝りましたが、彼の怒りが収まる様子はありません。取り急ぎ袋の山を片付けた後、旦那は仕事があるので出勤。1人とり残された私は30分ほど同じことを叱られ続けました。
自治会の暗黙のルールである「当番が鍵を開け忘れたら、気付いた人がスペアキーを持つ自治会長にお願いする」というきまりをほのめかしてみましたが、
「自治会長なんて誰だか知らん!」とますます火に油を注ぐ結果に…。
他の人のようにごみ袋を扉の前に置いてしまうという手もあるのでは? というツッコミは敢えてせずにお叱りを聞いていましたが、
「おれがカラスからゴミを守った」という文言が繰り返し登場することに気付きます。そこで私は
「カラスがゴミを荒らさないよう見守ってくれたんですね。私の失敗のフォローをありがとうございます!」と謝罪から感謝路線に変更。すると、男性の顔にほのかな笑みが! 的を射たりとばかりにお礼を数回伝えると、満足したのかようやく立ち去ってくれました。
怒りの裏側にあった老人が抱える事情
自分の失敗と罵声に落ち込んだ私は、ご近所事情に詳しい知り合いのおばあさんにこの件を相談しました。すると
「あの方はね、認知症なの。奥さんも亡くなって、お子さんとも仲が悪い。鍵当番忘れるってたまにあることだから、スペアキーがあるのよ。だから気にすることないわ」と慰めてくれました。
認知症だから自治会長がわからないし、冷静な判断もできなかったんだ… 支えてくれる身内もおらず、病と闘いながらもしかして孤独や怒りを抱えているのかもしれません。だからこそ自分の存在を誰かに誇示し、感謝の言葉が欲しかったのかも。私は心から腑に落ち、ようやく落ち着くことができました。
怒鳴られたストレスがすべて消えた訳ではありませんが、小さな自治体の片隅で孤独と怒りを抱えた老人のことを考えると、恐怖が少しやわらぎます。だれだって彼のようになる可能性はあるのです。人生の終盤をどうすごすか、それは今の自分の生き方次第。「鍵当番は絶対忘れない!」と猛省しつつ、今回の事件を大きな教訓にした私です。
(ファンファン福岡公式ライター/日野原 花)