不妊治療に終止符。子無しの人生という選択。

女性の人生は大変です。仕事、結婚、出産と人生の流れが変わってしまう大きなイベントがあります。できればどれも好きなタイミングを自分で選べればいいけれど、なかなか上手くいかないですよね。私は結婚すれば、すぐに妊娠できると思っていた矢先にぶつかった「不妊」という壁。様々な検査をしても原因は見つからず、6年以上の月日を費やしました。

これから出産を考えている女性達に「知らなかった」と後悔して欲しくない。妊娠や不妊の事を当事者になる前に少しでも早く知って欲しくて、また不妊治療を頑張っている誰からの勇気になればと思い、長き渡ってコラムを書かせていただきましたが、今回が最終回です。

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最後の受精卵は染色体異常がありました。

最後の受精卵は一か八か移植してみるつもりだったのですが、仕事でなかなかスケジュールを組めずにいました。そんな時に担当の先生から「移植してもいいけど、山口さんの場合、何度も流産も経験しているから、着床前胚染色体異性数検査をしたらどうか?」と勧められました。もし妊娠しても初期流産となれば、また手術をしなくてはならない可能性が高い。振り返ると確かに肉体的にも精神的にも大きな負担になります。

検査結果が出るまで3~4週間。ちょうどそのタイミングで取り組んでいた仕事もひと段落つく頃です。移植可能な卵だったら、それから移植をする。ダメなら、ここで本当に不妊治療は辞める。

そう決めて検査に出した結果、染色体異常があり移植できない受精卵でした。ここで私の不妊治療は終わり。時間もお金も全てを治療に注いで、気が付けば6年以上の月日を費やしてきました。

不妊治療を辞めた日

不思議なことに、この日、涙は出ませんでした。もう何度も泣いて泣いて、涙も枯れていたのかもしれません。やっぱりまだ続けようかと迷うどころか、やっと解放されるんだ!というどこか安堵したような気持ちの方が大きかったです。

人に話せば、まだいけるよ!と励ましてくれる人もいます。私の友人でも45歳で出産し子育てに奮闘している人もいます。しかし、この出口のない辛い治療を自分の時間や健康を犠牲にして、これ以上続けていくのは辛すぎるということ。例え産めたとしても、子育てはそこからスタート。育てていくだけの体力に自信がなくなってしまったこと。何より、もうこの生活から解放されたい、自分らしく生きていきたいという想いが、子供が欲しいという想いを上回ってしまいました。

これまで努力すれば、報われると信じてきた人生でした。仕事でもプライベートでもたくさんの夢が叶ってきたから。でも、不妊治療…これだけは、どれだけ努力しても結果が伴うわけではないということを思い知りました。大きな挫折と劣等感、絶望を嫌というほど味わいました。

母の日が来るたびに、子供からもらった絵や花のSNS投稿を見てはきっと羨むだろう。子供がどこの大学に進学しただの、どこに就職しただの、孫が生まれただの、正月に帰ってきただの、友人達のそんな会話には混ざることはできないだろう。これからの人生ことあるごとに子供に恵まれなかった寂しさが付きまとうかもしれません。

でも人生に正解なんてないと思うのです。多数派の生き方が正しいとされがちですが、結婚し、子供を産み、育てるだけが人生じゃない。そこでしか得られない経験は確かにあるけれど、自分らしい時間の過ごし方や楽しみ方、また何か人生を通して使命のようなものを感じて生きている人だっています。

誰にも文句を言われる筋合いはないくらい、ここまで私は十分頑張ってきたと胸を張って言えます。心の底から自分を褒めて労ってあげたいとさえ思うのです。

私のこれからの生き方

不妊治療を通して多くの事を学びました。特に少数派と呼ばれる人たちの気持ちがよくわかるようになった事は、結婚や出産など女性の幸せについて、なんとなく植え付けられていた価値観を大きく変え、視野が広がり人として優しくなれたような気がしています。

不妊治療は辞め時が本当に難しい。私も何度もこれが最後、もう辞めたいと思いながらもダラダラと続けてしまいました。最初に夫婦で何回まで、何歳まで、としっかりルール決めをしておいてもいいし、体力・気力・経済的に余裕があるならば、納得いくまで(卒業するまで)続けるもよし。私は時間をかけることで、子無し人生のイメージをポジティブなものに変換できたと思います。悩みぬいて涙を流し続けた6年間の長いトンネルを抜けて、ここからは仕事もプライベートも自分の人生を謳歌したい。やっと自分の人生の扉が開いたような気持ちです。

大人だけでしか行けないオシャレなレストランでリッチなディナーを楽しむこと、好きな時に旅行できること、砂だらけの洗濯物に追われる必要がないこと、カレーはいつだって辛口でOKなこと。見方を変えれば、子供なしの人生だって魅力的です。

日本の未来が明るいものでありますように。

日本の未来を担う子供は社会の宝です。私は子供には恵まれませんでしたが、産める方にはどんどん産んで欲しい。そのためにも、子育てしやすい社会になるように、世の中の子供たちの未来が明るいものになるように、と思いを込めて選挙は必ず行くし、ふるさと納税の使い道でも子育て支援を選んだりしています。子供がいなくても、できることは沢山あるのだと感じています。

多様性が重んじられる時代がやってきました。とはいえ、まだまだ根深い昔ながらの考えや風習も多い中で、政治や社会はこれからもっともっと変わっていかなくてはならないでしょう。

このコラムで出産を望む一人でも多くの女性が、1日でも早く「不妊」は他人事ではない事を知って、ライフプランを立てる事ができますように。今、歯を食いしばって不妊治療に取り組んでいる方が、ママになることができますように。それぞれの立場で、この世に生きる女性達が生き生きとした自分らしい人生を送ることができますように。

長期に渡るコラムにお付き合いくださり、ありがとうございました。

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

福岡を拠点にフリーアナウンサー・タレントとしてテレビリポーター、イベントMC、ラジオパーソナリティ、コラム執筆など多方面で活躍中。健康管理士、食生活アドバイザー。自身の不妊治療の経験を通して、より多くの方に不妊治療に対する理解を深めて欲しいと発信している。

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