私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「おばあちゃん、罰が当たることってあるの?」
「私のお母さんから聞いた事があるよ。話してあげようかね」
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祖母の母がまだ小さかった、ある夏の日。
田んぼのわきの小川でメダカを追いかけたり、泥団子を作ったり、皆と楽しく遊んでいた。
「何だ?これ!」
友達の一人が指差す方を見ると、田んぼの端に小さな祠(ほこら)があった。
中には人の形をした古い木の像が祀(まつ)られていた。
「これで遊ぼう!」
その像に落ちていた縄を結び引きずったり、跨(また)がって赤土の斜面を滑ったりして遊んだ。
皆も像もドロドロになって夢中で遊んでいた時、気難しいと評判の△さんが血相を変えて近づいて来た。
そして大声で
「お前達こんなことをして、たのかん(田の神)さんの罰が当たるぞ!」と怒鳴った。
怖くなった皆は近くのため池に行き、像をきれいに洗うと祠に戻し「許してください。祟(たた)らないでください」と手を合わせた。
それから数日後、△さんが倒れたという噂を聞いた。
なんでも高熱が出て体が動かず、ずっとうわごとを言っているらしい。
家族で看病しているうちに娘さんもおかしくなった。
「子ども達と楽しく遊んでいたのに、なぜ邪魔をした!」と恐ろしい形相で叫ぶと、その場に倒れてしまったのだ。
それを聞いた子ども達は相談し、△さんの奥さんに数日前の出来事を伝えた。
奥さんと子ども達は祠に行き、お米と水を供え「△を許してください」と声をそろえた。
ほどなく△さんも娘さんも意識を取り戻した。
「怒鳴ってすまなかった。お前達のおかげで命を拾った。ありがとう」
一部始終を聞いた△さんは子ども達に頭を下げた。
一方、娘さんは全く覚えてなかったそうだ。
その後△さんはりっぱな祠を作り、たのかんさんを祀った。
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「お母さん達は新しい祠の中でもよく遊んだって言ってたよ。神さんも賑やかで嬉しかったんじゃないかな」
「その祠見たことある?」
「何回も行ったけどきれいな所だったねえ。でも数年前に取り壊されてマンションが建ったそうだよ」
とても残念そうな顔で祖母はそう答えた。