明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
「ちょっとうちに来ない? 見せたい物があるんだ」
小学三年生の春、下校時に友人のEが話しかけてきた。
Eの家は学校からは遠かったので「あとから行く」と答え、急ぎ家に帰るとランドセルを放り投げ自転車で出かけた。
「こっちこっち!」
Eの家に着き、庭を抜けて導かれるままについて行くと裏庭に出た。
そこには毛布が敷いてあり、母犬と五匹の子犬が座っていた。
「2カ月くらい前に生まれたんだけど、うちで飼うには多過ぎて…一匹もらってくれないかな?」
「わぁ、いいの?」
「もちろん! 好きなのを選んで」
「どれどれ」
しばらく見ていたがどの子犬も元気いっぱい。迷っているとその中に一匹だけぼうっとしている真っ白な子犬がいたので、なんとなくそれを選んだ。
母犬の匂いの付いた古タオルにくるんで自転車のかごに乗せて連れ帰った。
家族はみな犬好きだったのですんなり飼うことになった。
その晩、困ったことが起きた。
知らない所に連れて来られたからか、ずっと鳴いている。
「古い目覚まし時計をそのタオルにくるんで横においてやったらどう。コチコチ言う音を母犬の鼓動と思って安心するんじゃない?」という祖母の思いつきを試すと、うそのように眠ってしまった。
チロと名付けた子犬はすくすくと大きくなったが、家族からはあまり賢くないと思われていた。
夜中に庭の池に落ちたり、南天に絡まって首が絞まったり、その度に鳴いて助けを求める。
あるときは雨が降るのに自分の小屋に入らず濡れているので見てみると、小屋の中には近所から逃げて来た鶏がすまし顔で座っていた。
「チロは気が弱いね」あきれてそう言うと
「私は優しくていい犬だと思うよ」と祖母はチロの頭をなでた。
翌年の夏、隣りの一家が引っ越して行き住居は平地に均(なら)された。
ある日学校から帰って来ると、そこに1〜2mの大きな岩が小山のように積み重ねられている。
岩と岩の間には子ども一人くらいの隙間があり、入ってみると秘密基地のようで楽しい。
翌日、本とお菓子を持ち込み隠れ家気分を満喫していると、チロが激しく鳴き始めた。
しばらく放っておいたが鳴きやまない。
やれやれと思いながら、庭に入ると祖母がいた。
「突然鳴き始めたんだけどどうしたのかな?」
祖母がそう言った瞬間、隣りからすごい音が聞こえた。
二人で見に行くと積み上げた岩が崩れ落ちていた。
ぞっとした。
「さっきまで、あの中にいたんだけどチロがあんまり鳴くから戻ったんだ…」
「教えてくれたんだよ。やっぱりいい犬だね」
「命の恩人…いや、恩犬だね」
その日貯金箱を壊し、肉とバナナを買ってきた。
チロはペロリと平らげると満足そうに尻尾を振った。
チョコ太郎より
99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。