福岡の書店員さんに福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。17回目は「メトロ書店 ソラリアステージ」の店長・川原精二郎さんを訪ねました。 ※2020年1月時点の情報です。メトロ書店 ソラリアステージ店は同年3月に閉店、現在はメトロ書店 千早店(JR千早駅)が営業中です。
長崎県の島を舞台にした福岡市出身作家の芥川賞受賞作
「背高泡立草」古川真人 著
―川原店長、今回もよろしくお願いします! 今回紹介してくださるのは芥川賞受賞作ですね。 そうです。福岡市出身の古川真人さんの「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」(集英社、1,400円+税)です。1月15日に発表されたばかりの第162回芥川賞です。 ―古川さんは以前の作品もずっと芥川賞の候補になっていましたが、まだ若い作家さんですよね。 1988年生まれですから30代前半ですが、作風は非常に落ち着いた感じです。九州の方言を使った文体というのも特徴です。本人は大学から関東のようですが、母方の親戚は長崎県平戸市の島におられるようですね。
―今作は、どんな話でしょうか。 物語の舞台は、長崎県の島です。福岡に住む主人公の女性が先祖の納屋の雑草を刈りに、母親や親族と島を訪れます。草を刈りながら、かしましい女性らのおしゃべりが進む中、家族の物語や島の歴史的な話も挟み込まれていきます。現代と昔を行き来するような構成になっていて、読んでいて不思議な感覚になります。満州や江戸時代のことが出てきます。 ―今回も方言が多用されていますか? 長崎弁や博多弁で展開されます。九州以外の人には、分からない言葉も多いかもしれません(笑)。でも、方言のほうがニュアンスが伝わってくるように思います。そもそも僕は長崎市出身ということもあり、全く違和感ないですが(笑)。「五島から通ってきていた同級生がいたなあ」など自分自身の昔のことを思い出しながら読みました。登場する女性たちが話好きという設定なのですが、会話のテンポがよく、そのライブ感の面白さもあります。
―ポイントは? たわいもない会話から、家族の物語や土地の歴史が紡がれていく点でしょうか。全体的に優しさを感じるのも、ならでは。古川さんは、長崎にも福岡にもゆかりのある人だから、応援していきたいです。これまでの作品もそうでしたが、これからも九州を感じられる内容を描かれていくのではないでしょうか。
天神のライブハウス、福岡のバンド、移り変わる街の話
「ブードゥーラウンジ」鹿子裕文 著
―もう1冊、紹介してくださるとか。 “ザ・福岡”という内容といいますか、天神3丁目にあるライブハウスの話なので、とてもご近所さんの話です。鹿子裕文さんという編集者が書いた「ブードゥーラウンジ」(ナナロク社、1,800円+税)で、“ノンフィクション・エンターテインメント”とうたってあります。 ―そのライブハウスの名前、聞いたことあります。かなり前に行ったことがあるような…。 福岡でバンドをしてる人やバンドを見に行く人などはご存じなんじゃないでしょうか。当店のスタッフも知っていました。
―なんだか個性的な香りが漂っています。 中の挿絵にもインパクトあって、すごく面白いです。それに文体も。出演バンドのエピソードが詰まっていて、頑張ってる人の話もあるし、移り変わる街の話でもあります。「今っ、福岡のっ、音楽シーンは、間違いなくっ、冬の時代ですっ! 店だって厳しいよ!」と書かれ、続けて「めげんで、あきらめんで、やめずにやり続けた人間にはあ、かならず、かならず、いい時代がめぐってきます! だからみんな音楽やめんなっっっっ!」と。熱いですよね。 ―メトロさん名物のポップにも「激アツ」と書いてあります(笑)。 激アツなんです。福岡の街や音楽が気になる人に推薦したいです。 ―今回は何だか、真逆な印象の2冊ですね。早速、読んでみたいと思います。ありがとうございました!
福岡の書店員さん、君の推薦する本を読みたい【福岡キミスイ本 第16回】