明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
大学に入り一人暮らしを始めた頃、友人A の下宿によく遊びに行った。
本人の気さくな性格と商店街から近いこともあり、いつ寄っても5、6人がたむろしていた。
皆でよく朝まで映画や音楽論を語り合ったりして過ごした。
夜食に自慢の料理を披露する者もいた。
何に縛られることもなく友と過ごす時間はとても楽しかったが、一つに気になることがあった。
時々隣の部屋から子どもの泣く声が細く聞こえるのだ。
「また子どもの声だ。虐待されているんじゃない?」
何回目かのときにAに言うと、ちょっと顔を曇らせながら答えた。
「いや、たぶん違う」
それから数日経った夏の夜、Aから「今からちょっと来ないか」という電話があったのでアイスを手土産に訪ねた。
珍しく他の友人はいなかった。
「あの子どもの声、隣から聞こえると言ったね?」
「うん。そうだと思う」
「違うんだよ」
「違う?」
「隣はずっと空き部屋なんだよ」
「あっ! 確かに明かりが点いているのを見た覚えがないね」
「それから…いつも聞こえるわけじゃないだろ?」
「うん」
「今日はあることを確認しようと思ってるんだ」
「確認? どんな…」
そう言いかけたときチャイムが鳴った。
友人Nだった。
Aの提案で3人でビデオを観ることにした。
1時間ほど過ぎて映画が佳境に入ったとき、子どもの声が聞こえた。
思わずAを見た。
Aも顔をこちらに向けうなずく。
Nは映画に夢中で気が付いていないようだった。
映画が終わると、明日1限目の講義があるからとNは帰って行った。
ドアを閉めるとAが言った。
「さっき聞こえただろ」
「うん。聞こえた」
「これまでうすうす感じてたんだけど、今日確信したよ」
「どういうこと?」
「泣き声が聞こえるのは“Nがいる時”だけなんだ」
「おや、最近何かあった?」
その年のお盆に実家に帰ったとき、顔を見るなり祖母がそう言うのでこの出来事を話した。
「N君は優しい子?」
「うん。とても優しいよ」
「だから寂しい魂が引き寄せられたんだろうね」
「本人に言った方がいいのかな?」
「気付いてないなら、そのままでいいよ。そのうち収まるから」
それから数年。
社会人になってからNを誘ってAの家に泊まりに行った。
子どもの声はもう聞こえなかった。
そのことを祖母に伝えると
「ちゃんと空に還れたんだね」と満面の笑みを浮かべた。
チョコ太郎より
99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。