明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。
小学二年生の冬、コタツに入って本を読んでいた。
動物の不思議な能力に関する内容だった。
ふと思いついて横で編み物をしている祖母に話しかけた。
「前にたぬきがしゃべった話をしてくれたよね」
「よく覚えているね」
「ほかに不思議な動物の話ってある?」
「私の体験じゃなくてもいい?」
「うん。聞きたい!」
「町内にKさんっているでしょ」
「角の家の髪のまっ白なおばあさんだよね」
「そうそう。戦争の終わった年にそのKさんに起こったことだよ」
と編み物の手を止め、祖母は話し始めた。
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昭和20年の6月、Kさんに息子の戦死報告が届いた。
乗っていた輸送船が沈められたとのことだった。
Kさんは開戦前に夫を亡くし母一人子一人だったのでさぞ気落ちしているだろうと思い、皆が様子を見に行くと当の本人はいたって元気で息子は生きていると譲らない。
側にはこの辺では見たことのない痩せた白い犬が座っていた。
「戦死報告が届いた夜、仏壇の前にぼんやり座っていたら表で『母さん』という息子の声がしたんだよ。飛んで出たけどあの子はいない。町内中を探しまわったけれどやっぱりいない。がっかりして戻ったらこの犬が靴脱ぎの所に座っていてね。見るとどこから持って来たのか息子が子どもの頃に被っていた帽子を抱え込んでいる…これはきっと息子が生きているという知らせだよ!」
気が動転しているのかとも思ったが悲しむよりはいいと、周りはそのままにしておいた。
ある日、祖母が立ち寄るとKさんは犬と並んで縁側に座っていた。
「あの時、あんまり痩せているので芋の茎の煮たのをやったらそのまま居着いたんだよ」
「犬も命が繋がって良かったねぇ」
「あんただけに言うけど…もうすぐ戦争は終わるよ」
「なぜ分かるの?」
「この犬がね…教えてくれたんだよ」
「!」
「そして息子も帰って来るって」
Kさんはにっこり笑いながらそう言った。
その言葉通り、その夏に終戦を迎えた。
それから四か月が経った雪の夜。
Kさんが寝ていると表で犬がひと声吠えた。
何だろうと思いながら扉を開けると、雪明かりに照らされた人影が見えた。
「母さん、ただいま戻りました!」
息子さんだった。
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「犬が…不思議だね」
「どうやって知らせたのか聞いたんだけど、Kさんは笑って答えなかった。不思議と言えば息子さんが戻った翌日、その犬は姿を消したんだよ…役目を終えたからかもしれないね。でも息子さんが戻ってきて本当に良かったよ。待ち人が戻らないというのが一番哀しいからね。先の戦争ではそんな思いをした人がたくさんいたんだよ」
「そうだよね…戦争はダメだよね」
「お、ちゃんと分かってるんだ。偉いね! 今度、井筒屋で何か買ってあげようかな」
「ホント? じゃあ戦車のプラモデルがいい!」
「あらら…」
祖母は苦笑しながら編み物を再開した。
チョコ太郎より
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