續・祖母が語った不思議な話:その捌拾(80)「食べ物運」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 小さい頃から「食べ物運」がない。

 最初に気付いたのはお菓子だった。
 駄菓子屋で買ったキャラメル、8個入っているはずなのに7個しかない。
 海外旅行土産にもらったチョコレートの中には虫が。
 家族旅行に行った先で買った饅頭には見事なカビ。


 外食に行くと、自分の分だけいつまで待ってもこない。
 確認すると「すぐ上がります」と慌て顔…たぶん忘れられていたのであろう。
 2、3分でバタバタ作った熱々の料理が提供された。
 オーダーしたものと違う料理が。
 こんなことが何度もある。

 ハンバーグをオーダーするとほぼ八割の確率で生焼けがくる。
 豚肉のソテーを頼んでも生がくる。

 「これ、赤いですが大丈夫ですか?」
 「うちは低温調理でして、肉は赤くても大丈夫です」
 「そうですか…ちょっと見てもらっていいですか?」
 「…。…。…!!! 失礼いたしました。取り替えさせていただきます」
 こんなやりとりを何度繰り返しただろう。

 出来あいのお弁当を食べていると中からプラスチック片が出る。
 クリームパンなのにクリームが入っておらず中は空洞。
 大好きだった鯖はある日を機会に蕁麻疹(じんましん)が出るようになり食べられなくなった。
 それではとイカを食べればアニサキスで七転八倒。
 どう考えても異常な頻度だ。

 ………………………………………………

 数年前、昼食に繁華街のやや高級なすき焼き屋に入った。
 噂通り人気だったが幸いすぐに座れた。
 さほど待たずに料理も出てきた。
 「当店では肉はもちろんですが、卵にもこだわっております」と給仕。
 卵を割った。
 …中は血だらけだった。
 
 「すぐに取り替えます」という給仕を見送りながらやれやれと思っていると、隣りに座っていた年配のご婦人が声をかけてきた。
 「違っていたらごめんなさい。あなた、小さなときからこういったことがよく起こりませんか?」
 「はい。それはもう頻繁に…なぜお分かりですか?」
 「おばあさんの願いが叶ったしわ寄せが、あなたにきています。でもそれで命を落とすようなことはありません。遡っての孝行だと思うのが吉ですよ」
 老婦人はそう言うと笑顔を残して去って行った。
 あまりに不思議で呆然と見送るしかなかった。

 どういうことか聞きたかったが祖母も父も既に亡くなっていたので、叔父の家を訪ねた。

 「俺は小さかったから詳しいことは分からんが、戦時中に兄貴(父)が栄養失調と病気で死にそうになったことがあってな。母ちゃん(祖母)は走り回ってなんとか芋の蔓や南瓜の茎など食べられそうな物をかき集めたけれど食べれん。もう駄目やないんか…と思いよったら母ちゃんがどっかに願掛けに行ってな。そしたら果物やら砂糖、お菓子まであちこちから食べ物が届いて兄貴は助かったんよ。母ちゃんはなんちゅうか…不思議なとこがあったよなぁ」

 叔父の言葉に合点がいった。
 そういうことだったのか。
 
………………………………………………

 そして今。
 先日も串揚げ屋で食べていると、中から折れた串が出てきた。
 孝行は続いているようだ。

チョコ太郎より

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