私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
小学校3年生の夏の夜、祖母と一緒にTVの特番を見ていた。
その頃ブームだった心霊写真や世界の幽霊が出る館、髪の伸びるお菊人形に河童の木乃伊(ミイラ)と盛りだくさん。
ある古い屋敷に伝わる幽霊が描かれた掛軸が紹介された時に祖母が言った。
「幽霊の掛軸の話はおじいさんから聞いたことがあるよ」
「聞かせて! 聞かせて!」
「まあまあ。番組を見終わってからね」
江戸末期、祖母のおじいさんは藩命で飛地(他の藩の中にある領地)を調べていた。
何日もかかる面倒な仕事を終え帰路に着いた。
日は暮れかけていたがその日は満月…早く家に戻りたかったので一番近いだろうと思われる山道を進んで行った。
だが、これが間違いだとすぐに気づいた。
あまり人が通らないのか雑草が生い茂り、どこが道だか分からない。
そうこうしているうちに雨まで降り出した。
「こういう時こそ落ち着け」と自分に言い聞かせ、四方を見渡すと少し離れた山の中腹に明かりが灯っている。
激しさを増す雨の中、明かりに向かって山道を進んで行くと石段が見えた。
昇っていくと、こんな山奥に不似合いなくらい立派な寺についた。
入口の板木を叩くと若い僧侶が出て来たので一夜の宿を乞うと中へ通された。
麦飯と味噌汁を振る舞われた後、離れの一室に案内された。
部屋には何もなかったが床の間に幽霊の描かれた古ぼけた掛軸が飾られている。
「この掛軸は由来のあるものかな?」興味を持ったおじいさんが訊くと
「あいにく拙僧は存じませんが、ご住職なら…」と答え、僧侶は去って行った。
不思議な掛軸だなと思ったが、疲れていたのですぐに床に着いた。
雨音を聞いているとだんだんと意識が遠くなっていった。
……?
何かの気配に目が覚めた。
雨は既に上がっている。
月明かりでぼんやり明るい床の間に目を凝らすと妙に手の長い女が掛軸を外そうとしている。
「どうなされた?」と声をかけると女は振り返ることもなく部屋を出て行った。
女を追って部屋を出たが姿がない。
廊下を進むと本堂に明かりが点いている。
中に入ると、住職と思われる老僧が座禅を組んでいた。
「よそから来られた方か。女を見たのだな」
「なぜ分かるのですか」
「○○山を抜けて来られたんじゃろ。あそこは厄介なところでの。地元んもんは近づかん」
「あの女は何です?」
「其処許(そこもと)が連れてきたのよ。○○山からの」
「なぜ掛軸を外そうとしていたのですか?」
「あの軸には強い念がこもっていて、他の妖(あやかし)も近づけんから邪魔なんじゃよ。まあ、あのくらいの小物では歯が立たぬがの」
「では、私をあの部屋に泊めたのも…」
「うむ。上手くいったようじゃの」
翌朝早くおじいさんは寺を出た。生まれ変わったように体が軽かった。
「目には目を、妖には妖を…だね」
そう言うと祖母はニッコリ笑った。
(ファンファン福岡公式ライター/チョコ太郎)