私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が十一歳の秋、体調を崩し寝付いた。
何日も高熱が続き、医者に来てもらっても頓服を飲んでも一向に下がらない。
家族は大変困ってしまい、どうしたものかと話し合ったが良い知恵が出ない。
そうこうするうちに祖母は水すら飲めなくなった。
そんな時、菩提寺の和尚さんが見舞いに訪れた。
どうしたことか、大きな鉢割れ猫を連れて来ている。
和尚さんが座敷に上がると猫も当然のように上がった。
「具合は…あまり良くなさそうじゃのう…何か食べたか?」
「いえもうずっと寝ているばかりで、意識もあるのかどうか…」
そんな話をしていると鉢割れ猫が話に割って入るように鳴きだした。
「和尚さん、この猫は?」
「来る途中、気がついたらずっとついて来てたんじゃ。追っ払っても逃げんでの」
ここまで話すと猫がまた鳴きだした。
見ると、二本足で立ち上がって柱を昇ろうとしている。
和尚さんが抱えてもしきりに天井に向かって前足をのばす。
「わしらには分からんが、何かあるのかもしれん。猫の手も借りてみるか」
そう言うと和尚さんは猫を天井裏に上げた。
しばらくすると、天井が落ちるのではないかというくらい何かが暴れ、激しく争うような音がし始めた。
皆、固唾(かたず)をのんで見守っていたが半刻(約一時間)ほどすると静かになった。
耳をすますとカリカリと引っ掻く音が聞こえる。
天井板をはずすと、鉢割れがポンと飛び降りて来た。
祖母の父が天井裏をのぞくと、ちょうど祖母が寝ているところ辺りに大きな塊がある。
帚(ほうき)で引き寄せてみると猫くらいもある大ねずみの死骸だった。
「こんなものが住み着いとったのか! この猫は退治に来たのかもしれんな」
「ミャ〜」
和尚さんをはじめ皆が驚く横で、埃まみれの猫はひと声鳴くと何事もなかったかのように丸くなった。
和尚さんが暇(いとま)を告げると鉢割れも起き上がり、一緒に帰って行った。
その夜からうそのように熱が引き、祖母は一命をとりとめた。
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「鉢割れは縁起が悪いなんて言われることもあるけど、私にとっては大恩人」
「本当だね。それで猫は?」
「それからお寺に住み着いて長いこと生きたよ。お経が始まるとそれに合わせてナゴナゴ言うので、皆“猫の和尚”って呼んでたよ」
祖母はそう締めくくった。