私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「かごめって知ってるかい?」
ある春の午後、祖母がこう切り出した。
「歌のかごめかごめ?」
「これは少し違うね。私が十歳の頃の話でね…」
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春のお彼岸にぼた餅をたくさん作ったので、祖母は近所に配りに行った。
五、六軒配り終えてEさんの家を訪ねるとなんだか様子がおかしい。
雨戸を閉め人気がなく、六角の星を描いた紙があちこちに貼ってある。
「こんにちは、こんにちは!」
何度も呼び掛けたが返事もなく誰も出て来ない。
仕方がないので、ぼた餅は持ち帰った。
翌朝、Eさんの奥さんが訪ねて来た。
「来てくれたのは分かっていたんだけれど…出られなくてごめんなさいね」
すまなさそうにそう言うと、その理由を話し始めた。
実家に用事があった奥さんは、昨日の朝から三歳になる娘を連れて出かけた。
久しぶりに会った母親と話し込んでいたら、子どもの姿が見えない。
手分けしてあちこち捜したが古くて大きな家なのでなかなか見つからない。
その時、蔵の中から泣き声が聞こえた。
駆けつけると普段は鍵がかかっているはずの戸が開いている。
中に入ると子どもは長持の中に座って泣いている
周りには長持に入っていたであろう古い着物が引き散らかされていた。
奥さんは着物を元に戻すと、泣く子を連れて蔵を出た。
「見つかったから安心して。蔵にいたのよ、しかも長持の中に」
それを聞くなり母親は顔を曇らせ、慌てて奥に入ると十枚ほどの半紙を持って戻ってきた。
「今すぐお帰り。そして戸を閉めてこの紙を貼りなさい。今日一日その子は外に出さないように!」
強い口調でそう言うと半紙を渡した。それには六角の星が描かれていた。
あまりの剣幕にただ事ではないと感じた奥さんは、急いで家に戻りその通りにした。
「なぜ母がそんな事を言ったのか分からないけれど、何事もなく子どもも無事でした」
そう言うと会釈をして帰って行った。
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「それで、かごめは?」
「うん。紙に描いてあった六つ角のある星のことを籠目(かごめ)って言うんだよ。魔除けになるのさ」
そう言いながら祖母は指で空中に描いてみせた。