私たち夫婦は新婚時代、小さなアパートに住んでいました。こだわって選んだ家具に囲まれた新生活、近くのスーパーに行くのも新鮮な気持ちでした。ところが、隣にある夫婦が引っ越して来たことで、アパート中を巻き込んだトラブルに発展してしまうのです。
アパートでの生活
アパートは2階建てで築年数が古く、8部屋ありました。私たちは1階の角部屋。しばらくして引っ越して来た隣人は、奥さんは出産を控えている海外の方で、ごく一般的な夫婦でした。産前の為か、奥さんによく似たお母さんもいました。
1階は夫婦や家族で住んでいる人が多く、2階は独身の人が多かったです。
早朝4時にトイレの流す音が聞こえる位で、みんな静かに生活をしてくれているのか、騒音も気になることはありませんでした。
しかし隣からは話し声や生活音が深夜まで聞こえるように。落ち着いたら静かになるだろうと思っていたのですが、それは何日も続きます。私も旦那も騒音にストレスを感じるようになっていました。
ある日、隣から音が全く聞こえなくなった日がありました。奥さんが出産の為、入院したのです。1週間程でしたが、騒音なく穏やかな日を過ごす事が出来ました。
「おぎゃー」
ある日仕事から帰宅すると、隣から可愛い声が聞こえてきます。泣き声はすぐそこで泣いているかのような大きさで、赤ちゃんの声はこんなに響くのかと驚きました! 泣き声はそれから朝まで続き、私たち夫婦は声や生活音が聞こえる度に目が覚めるように…。生活音に加えて、泣き声。一体いつまで続くのかと考えてしまいました。
ついに住人から苦情が
眠れない日々が1カ月続き、仕事にも支障が出始めた為
「大家さんにお願いをしに行こう」と夫と話していた時のことです。
隣の部屋の扉をたたく音と、男性の大きな声が聞こえてきました。
「いい加減にして下さい!」扉を開けると、そこには怒った表情の4人の男性と女性が1人いました。同じアパートの住人のようです。
隣の部屋からは奥さんと旦那さん、そして赤ちゃんを抱えた奥さんのお母さんが出てきました。男性が
「泣き声が響くので、夜はベランダの戸を閉めて、シャッターを下ろしてください」と言います。隣家族は引っ越してから、1日中窓を開けて過ごしていたのです。
奥さんは疲労しきった様子で、黙って頭を下げてました。旦那さんが
「妻の母が冷房が苦手なので、窓を開けています。海外から来ているのですぐに帰れない事情を分かってください」と言います。すると男性は
「多少の音は我慢します。でも冷房を付けて、赤ちゃんが快適に過ごせるようにしてください。大変な事になりますよ!」と言いました。確かに、赤ちゃんはオムツと薄い肌着で、汗だくになって泣いていました。
「分かりました」隣人の一言でその場は収まりました。そしてその日以降、隣家族はシャッターを下ろし、冷房を付けて生活するように。その日をきっかけに、騒音は気にならなくなりました。
他人事ではない
今回の一件は、けっして他人事ではないと感じます。子どもの泣き声は親であっても、精神的に負担になります。他人の子なら尚更です。
それでも奥さんが疲労しきっていたあの時、子育てを経験した今の私がいたら、何か出来たのではとも思います。
私と夫は子どもができたのをきっかけに引っ越したので、隣人達のその後は分かりません。アパート暮らし最後の日に、奥さんと少し会話をしましたが、日本語が上手な穏やかな人でした。赤ちゃんと奥さんが元気に過ごせていますように、今も心から願っています。
(ファンファン福岡公式ライター / でんでん)