祖母が語った不思議な話・その弐拾(にじゅう)「勧進さん」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 祖母が8歳の冬、家の犬・シロが物を食べなくなった。
 村のお医者さんにも診てもらったが原因が分からない。
 数日が過ぎシロはどんどん痩せ、ついに立ち上がれなくなった。
 祖母は心配でたまらず、ずっとシロの側についていた。

 「ごめん!」

 大きな声がしたので表に出てみると、髭もじゃの山伏姿の勧進さん(かんじん。仏の教えを説き、寄付を集める人)だった。

出典:チョコ太郎

 「犬が病気だろう!」
 祖母の顔を見るなり勧進さんはそう言った。
 「築山(つきやま)の松が弱っている。その根元にスルメをやると松も犬も元気になる」
 あっけにとられる祖母を残し、勧進さんは去って行った。
 庭の築山を調べるとたしかに葉が赤くなっている松がある。
 半信半疑ながらも急いでスルメを買ってきて、その根元に埋めた。
 驚くことにその夜からシロは起き上がり、食欲も戻り、どんどん回復していった。
 松の木も青々とした葉をつけるようになった。

出典:チョコ太郎

 それから十数年が経った。
 結婚し家を出ていた祖母は「お母さんの具合が悪い」と連絡を受け、急ぎ帰省した。
 祖母の母の容態は悪く、高熱で意識が無い。医者も手を尽くしたが今日、明日が峠だという。
 あまりに急な事に呆然としていたら表で声がした。

 「ごめん!」

 そこにはあの勧進さんが立っていた。
 「この家の井戸を見せろ!」
 勢いに押されて、祖母は裏にある井戸に案内した。
 安全を考えてのことか、以前は無かった柵がしつらえられ、上から板が乗せられていた。

 「これでは息ができない。このままでは井戸も病人も危ない!」
 そう言うと覆っていた板を剥がし放り投げ、柵も全部引っこ抜いてしまった。
 何と言ったら良いのか迷っているうちに、勧進さんは姿を消していた。

出典:チョコ太郎

 家に戻ると寝ていた母が目を開けている! 熱はあるが意識も戻っている!
 その後、医者も驚くほどの回復を見せ、すっかり元気になった。

 「次に来られた時にはお礼をしようと思っていたんだけど、それからは二度と村には現れなかったよ。不思議だったのは最初に見た時から十数年が経っていたのに全然姿が変わっていなかったことだね」
 祖母はそう締めくくった。

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