明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えし、待望の続編スタートです!
小学二年生の十一月、母と新日鉄の起業祭に出かけた。
いろんな露店が軒を連ね、射的の景品のブリキの戦車やゼンマイ仕掛けの亀に目を奪われた。
ひときわ賑わっている店があったのでのぞいてみると、かわいらしい真っ白な二十日鼠が売られていた。
私はもちろん、動物好きの母もとても心惹かれたようだった。
「…かわいいけど…おばあちゃん、鼠が嫌いだから飼えないね」
「…そうね…ひっくり返るかもね」
後ろ髪引かれながらも二人でそう納得するとお土産に梅ヶ枝餅を買って家路に就いた。
その晩、布団に入ってからも祭の余韻で眠れずにいると隣りで寝ていた祖母が声をかけた。
「眠れないのかな? 何かお話してあげようか」
「うん。おばあちゃんが怖いと思った話がいい!」
「それじゃあ…」と祖母は小さな声で語り始めた。
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祖母が十二歳の秋、子どもが産まれたばかりの叔父の家に産着を届けるため、隣町に来ていた。
用事を済ませ帰ろうとしたとき、赤ん坊が寝ている座敷に黒い影が動くのが見えた。
不審に思った祖母はとって返し、叔父に告げた。
家族総出で部屋を調べるていると屋根裏でドロドロと何かが走る音がする。
「鼠が赤ん坊を狙うちょる! 退治せんといかんぞ」
そう言うと叔父は家中に鼠取りの罠と猫イラズ(殺鼠剤)を仕掛けて回った。
鼠嫌いの祖母は早々に大騒ぎしている家を出た。
その夜、自分の部屋で寝ているとカサリと音がし、襖(ふすま)が開いた。
音のした方を見ると、もわりとした黒い影に赤い目が光っている。
「これは?」と思ったときにはもう遅かった。
体が動かない。声も出ない。
それはゆっくりゆっくり近づいて来た。
「もう、だめか…」
そう思ったときふっと気配が消え、動けるようになった。
急いで灯りを点けると、猫ほどもある大鼠が枕元で死んでいた。
翌日叔父のところへ行き、この話をした。
叔父が言うには、大量の鼠を退治したが驚くほど大きな鼠が一匹家から逃げていった。だいぶ弱っているようだったのでいずれ死ぬだろうと放っておいたとのことだった。
「恨みを晴らしに家まで追っかけて来たんか…おとろしいのぅ。薬が効いてなかったらどうなっていたやら…」
叔父はそう言うとぶるっと震えた。
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「今でも鼠は苦手だよ。私は子年生まれなのにね」
祖母がそう締めくくるのを聞きながら、眠りの中に落ちていった。
チョコ太郎より
99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。