私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
ある日、祖母が古い裁ち鋏(はさみ)を、油を塗った布で大事そうに手入れしていた。
「おばあちゃん、それ何?」
「これはね、おばあちゃんのおばあちゃんからもらった守り鋏だよ」
「守り鋏?」
「そう。これにはこれまでに三回助けられたんだよ」
「どんな風に?」
「一度目は私の兄さんが鋏を持ったまま転んで服は大きく裂けたのに傷一つなかったこと。二度目はあんたのお父さんが子どもの頃、首に紐がからんでほどけず息ができなくなったんだけど、しまってあったはずのこの鋏が目の前にあって助けることができたこと」
「三度目はね…」
祖母は語り始めた。
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夏の午後、二人目の子を産んだばかりの祖母は子どもの服を作ろうと生地を裁っていた。
そばでは子ども達が寝息を立てていた。
あまりに暑いので戸は開け放していた。
作業に熱中していた祖母がふと誰かの視線を感じて目を上げると、知らない老婆が裏口から子ども達をじっと見ている。
「どなたですか?
声をかけたが返事もせず、老婆はじいっと立っている。
「なにか用ですか?」
もう一度声をかけると老婆と目が合った。ニタニタ笑っている!
とてもいやな感じをおぼえた祖母は、思わず鋏を持ったまま立ち上がった。
老婆はニヤニヤと見ていたが、鋏に目をやった瞬間形相が一変し、そろりそろりと姿を消した。
祖母は裏口に走ったが誰もおらず、裸足の足跡だけがうっすらと残っていた。
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「すごく気味の悪い…姿は人だけれど人じゃないような感じだった…。この守り鋏のおかげで助かったよ。大切にしなくちゃね」
チョキン!
磨き終わった鋏で、祖母は机の上のお煎餅の袋を開けた。