これは、主人の海外赴任の帯同で、中国・上海に到着した日の話です。家族4人でウキウキと外食していた私の目に、信じられない光景が飛び込んできました。長男がココナッツジュースを吹っ飛ばし、お隣のテーブルにいた男性のコートを白く染めてしまったのです。
上海初日のディナー
主人から上海駐在の話を聞いて「一緒に行く!」と答えた私。息子たちが3歳・5歳と幼かったこともあり、離れて暮らす選択肢は少しもありませんでした。自分ひとりで男の子2人を育てるのは、「絶対無理」と判断したのです。 会社の規定により、同じタイミングで行くことはできませんでしたが、主人が旅立ってから半年後、私と息子2人も上海に引っ越しをしました。 その夜は、家族4人での久しぶりの外食。主人がよく通っている庶民的な香港料理のお店で、引っ越し祝いのディナーです。人気店のようで店内はほぼ満席状態でした。 主人と私はチンタオビール、長男は珍しさで選んだココナッツジュース、次男はリンゴジュースで乾杯です。
ジュースが飛んだ先には…
楽しい時を過ごしていた私達。しかし主人がトイレに立った時、悲劇は起こりました。 普段から落ち着きのない長男が、ココナッツジュースを飲もうとしてグラスをテーブルの段差に引っかけてしまったのです。グラスになみなみと入っていた白い液体は、隣のテーブルへ勢いよく飛んでいきました。 「ああ!!」 お隣にいたのは30代くらいのカップル。なんと男性の黒のコートを白く染め、ベタベタのココナッツジュースまみれになってしまったのです。 私はその瞬間、「ドッ、ドイプチー!」と叫んでいました。 「ドイプチー」とは、中国語で「ごめんなさい」という意味。上海行きが決まってから、ゲームソフトで中国語を学んでいた私は頭を下げながら、唯一覚えていた謝罪の言葉「ドイプチー」を繰り返していました。 「コートを汚してしまい、大変申し訳ありません」 「クリーニング代をお支払いします」 「ああ! 靴にもジュースが飛んでしまっています」 日本語ではスラスラ言えるはずの言葉も、中国語では一言も出てきません。とにかく「ドイプチー」と言いながらティッシュで拭こうとする私に、男性が奇跡の一言。 「ああ、大丈夫ですよ。日本人です」
男性の反応は…?
「日本人だったー!!」(心の声) もちろん、日本人だから許されるというものではありません。おそらくデートの最中に、コートと靴を汚してしまったのですから。 「コートを汚してしまい、大変申し訳ありません」 「クリーニング代をお支払いします」 「ああ! 靴にもジュースが飛んでしまっています」 言いたかったことをようやく言えた私に「気にしないでください」と、にこやかに微笑む男性。ビックリして泣いている長男にも、男性は「大丈夫だよ」と声をかけてくれました。 「せめてクリーニング代を」と慌てて財布を出す私に、男性は 「ちょうどクリーニングに出す予定でしたので、かまいませんよ」と優しい嘘を言ってお店を出られたのです。 ちなみに、何も知らない夫が鼻歌を歌いながらのんきに戻ってきたのはこのタイミングでした… 「息子たちよ、大人になったらあの方のような紳士になるんだよ」 冷静になった今だからこそこう思えますが、当時の私はただただ焦るだけ。 「たまたま日本の方だったから話しが通じたけど、もし中国の方だったら…。中国語、真剣に勉強しよう」と心に誓った、上海最初の夜でした。 (ファンファン福岡公式ライター/minto)
雪国へ行くと社宅にあれがない! 忘れられない引っ越しの思い出