續・祖母が語った不思議な話:その肆拾肆(44)「帰れない」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」終了時に多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えした第2シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

 社会人になって7年が経った秋の深夜、車で実家からの帰り道。
 翌日は休み、空には中秋の満月…ゆっくり帰ろうと高速道路ではなく下道を選んだ。
 ほとんど車は走っておらずラジオで季節外れの怪談を聞きながら快適に走っていたが、どうもおかしい。
 違和感の原因はすぐに分かった。
 久しぶりとはいえこれまで何度も通った道、間違えるはずはないのに街には出ずにどんどん山の中に入っているのだ。
 どうしようか少し迷ったが、方角は間違っていないから峠越えで帰るのもいいかと思い直しそのまま進んだ。

 古い鳥居を左に見ながら走った先の二又を左(家の方向)に曲がる。
 細い一本道をぐるぐると登る。
 登り切ると行き止まり… 中学校の正門の前だった。
 車から下り、近づいてみると「K中学校」とある。
 こんな山の中に学校があるのか。生徒は大変だな…

 「あそこで間違えたのか…」
 来た道を引き返し、今度は二又を右に進んだ。
 しばらく下って行くと、途中から左回りに登りカーブが続いた。
 坂を上り切るとまた行き止まり。
 あの中学校の裏門だった。

 きつねにつままれたような気分で来た道を戻った。
 問題の二又を越え、さらに車を走らせる。
 やはりおかしい…来た時と風景が違う。
 不安なまま進んで行くと道は細くなりぐるぐると登りになった。
 次の瞬間、嫌な予感は的中した。
 着いたのは最初と同じ中学校の正門の前だったのだ。

 車から下り、月に照らされた校舎をなんとも言えない気持ちでしばらく見ていた。
 そのとき、背後で数人の足音がした。
 振り返ったが誰もいない。
 …そうか、今ここにいてはいけないんだ。

 急いで車にとって返すと、真っすぐに来た道に戻ることだけを考えて進んだ。
 しばらく行くと鳥居が見えた。
 何がどうなったのかは分からないが、山を下ることができた。
 あまりに不可解な出来事に一度落ち着いた方が良いと思い、実家に戻った。
 夜もかなり更けていたが、まるで戻ってくるのが分かっていたかのように祖母が迎え入れてくれた。

 「そうだったんだね。お腹もすいたろう。良い肉があるから焼いてあげよう」
 今夜出くわした怪異を告げると、何故か豚肉のソテーをご馳走してくれた。
 「ご馳走さま、おかげで落ち着いたよ。やっぱり高速道路で帰ろうかな」
 「大丈夫、大丈夫。きっと下道も抜けられるはずだよ」

 祖母が妙に進めるので再度下道を走ったが、今度は何事もなく家まで帰ることができた。

………………………………………………………

 後日、K中学について調べてみたが特に妙な噂話などはなかった。
 あれは昔の伝承にあるダリ(ひだる神:取り付かれると急激な空腹に襲われ動けなくなる)の類だったのではないだろうか?
 それとも車ぐるみのリングワンダリングだったのだろうか…
 今でも不思議に思う、まだカーナビが普及する前の出来事である。

チョコ太郎より

 99話で一旦幕引きといたしました「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました。この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひぜひ下記フォームにお寄せください。

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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