サンタクロースの故郷フィンランド。ある年、私はそのフィンランドでクリスマス休暇を過ごしたのですが、雪と氷に閉ざされた田舎の村での数日間は究極の非日常体験! 私たちが知る賑やかで華やかなイベントとは違い、そこで見たのは静かで素朴な営みでした。
幻想的な夜、氷の中に揺れる炎
フィンランド人の友人家族に招かれ、年末の仕事を片付け一路、北の国へ。ヘルシンキから国内線に乗り換え、さらに車で2時間ほど移動しました。
午後には暗くなる田舎道を車で走っていると、ところどころ地面に淡くゆらめく光が。それは、氷で作った器の中で揺れるキャンドルの炎!
「クリスマス時期になると、こうやって玄関先に飾る家が多いんだよ」と、滞在先のお父さんが教えてくれました。欧米では、家の周りを電飾でピカピカさせる家が多いですが、フィンランドは氷とキャンドル!
外気温が-20度を超える季節、キャンドルの火では氷が溶けないのだとか。酷寒の村をほのかに照らすキャンドルの炎が作り出す世界は、「幻想的」という言葉そのものの風景でした。
クリスマスイブの素朴なミサ
イブの夜には教会のミサに。北欧風の質素な木組みの内装の教会には、多くの信者が集まっていました。外の寒さとは別世界の暖かい室内に、派手さのない純粋な信仰の時間が流れます。
ミサはシンプルで、牧師さんの説話を聞いて讃美歌を斉唱。フィンランド語はアルファベットをそのまま発音するので、言語を知らなくても讃美歌が歌えるのです。
「どこから来たの?」
「日本です」
「へえ、遠くからようこそ!」地元の人とのやりとりが居心地よく、あたたかな気持ちになりました。
クリスマスの朝食「リーシプーロ」
フィンランドのリーシプーロというミルク粥は朝食の定番。クリスマスの朝にも、リーシプーロが登場しました。
このお粥に、シナモンと砂糖をかけて食べるのがフィンランド流。クリスマスの朝には一つだけアーモンドを混ぜ、それを当てた人には幸運がやってくるとの言い伝えがあります。
その年、アーモンドを当てたのは私!
「おお、幸運が来るよ〜」と口々に言われ、朝からとても良い気分に。実は、遠くからきた私に当たるようにと、お母さんが入れてくれたそう。フィンランドにも日本と同じようなおもてなしの心があって、うれしかったです。
クリスマスディナー「ヨウルキンク」
クリスマスのお楽しみのひとつ、ディナー。フィンランドでは、ヨウルキンクと呼ばれる大きなローストハムがメイン。塩でしめたサーモンにディルをたっぷり乗せたものや、根菜のグラタンなども登場しました。すべてとても繊細な味でおいしかったです。
そして、他の国と違うのがデザート。ガラスの器に盛られた、冷たく甘いベリーのスープです。これは、塩気の強い食事の締めくくりには最高で絶品でした。
サンタクロースが本当にやって来た
さて、クリスマスといえばプレゼントも重要なアイテムです。イブの夜にやって来るサンタクロースが、ひっそりとプレゼントを置いていく…、というのは多くの国でよくあるパターン。
では、サンタクロースの故郷フィンランドではどうかというと…。本当に家に来たのです!
クリスマスの夜
「ヒュッバ・ヨウルア(メリークリスマス)!」と言いながら家に入って来たのはなんとサンタクロース。家族みんなにプレゼントを運んできたのです。
これ、実は事前にサンタサービスを予約し、アルバイトサンタに来てもらうのだそう。夢があっていいなと思いました。「おじいさん」というイメージのサンタですが、この方は学生アルバイトなのがちょっとリアル。しかもその場にいた子どもたちは乳児のみで、怖がって号泣していました。笑
長い夜が続く日々の中で
緯度の高いフィンランド、夏は暗くなるのがほんのわずかな時間(しかもうっすら明るい)で、冬は明るいのがほんの数時間。北部の冬は暗い時間がさらに長くなります。
日本人の自分からしたら、その自然の営み自体がすでに非日常ですが、クリスマスはさらに神秘度が増すと感じました。
また、夏の恵みのベリーを保存して、夜の長いクリスマスに味わうなど、人々の素朴で丁寧な営みにも心を打たれたクリスマスでした。サンタクロースの故郷で過ごしたクリスマスは、今も大切な思い出です。
(ファンファン福岡公式ライター/吉野まのん)