「摂取量=危険度」ではない? 静かに重なるアルコールの肝臓へのダメージ【吉兼内科クリニック】

 「臓器の母」と呼ばれ、体の中で重要な働きをしている肝臓。一時的なダメージには強い一方で、長期間持続するダメージには弱いという一面があります。そして、肝臓で解毒されるものの一つにアルコールがあります。今回は肝臓の健康とアルコールの関係について、吉兼内科クリニックの吉兼誠先生にお聞きしました。

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【肝臓専門医】吉兼内科クリニック 吉兼誠 先生

 福岡県出身。福岡大学医学部卒業。福岡大学病院救命救急センター助教、福岡赤十字病院肝臓内科副部長などを経て、2014 年「吉兼内科クリニック」開業。肝臓、消化器治療を基にした豊富な知識と経験で地域医療を担う。

とっても頑丈な臓器、肝臓 だが持続的ダメージに弱い

 肝臓は体の中で最大の実質臓器で、「臓器の母」と呼ばれる程とても大切な働きをしています。胃腸で消化吸収された飲食物の栄養素を分解・合成し全身へ配ったり、その残りを貯蔵したり、毒やバイ菌を解毒・殺菌し、老廃物とともに便のもとである胆汁にして腸へ排出したりします。

 このように消化吸収されたものを一手に引き受けてすべて処理する大変重要な臓器ですから、一時的なダメージには大変強くできています。仮に半分切除しても十分生命維持できるほど余裕たっぷりで、半年から一年もすればほぼ元の大きさまで回復してしまうほどの再生力があります。

 ところが、こんなに頑丈な肝臓の最大の弱点が、ジワジワ、ダラダラと長期間持続するダメージなんです。旺盛な再生力が仇となり、毎日少しずつ肝細胞が壊されるとどんどん再生してしまうため、肝臓の中で破壊と再生がおびただしく繰り返されるうちに傷だらけになってしまい、硬く小さく萎縮する「肝硬変」に進行してしまうのです。


 アルコールは肝臓で解毒される「毒」の代表ですから、休肝日もなく大量に摂取しつづければ徐々にその機能を失い、「アルコール性慢性肝炎」から「アルコール性肝硬変」、「肝がん」へと進行してしまいます。

 怖いのは、肝臓が「沈黙の臓器」と言われるように、その間ほぼ自覚症状がないことです。黄疸、腹水、全身の倦怠感・痒み、食欲不振などの症状が現れた時にはもう手遅れの末期状態に陥っていることがあり、飲みたくても一滴も飲めない体になってしまいます。

早く気付きさえすれば、禁酒が必要とは限らない

 健康診断などで肝機能の数値が悪く、医師から飲酒について厳しく言われたことはありませんか?禁酒は確かに肝機能回復への近道かも知れません。しかし、アルコール摂取量が自分にとって適量であればやめる必要は無いんです。
 
 では、適量とはどのくらいなのでしょうか。厚生労働省の指導では、健康な日本人男性の適量は日本酒なら1日1合以下、ビールの中瓶なら1本まで、週5日以内。女性ならその半分までとお酒好きにとっては厳しい量となっています。

 しかし、すべての人にとってこの量が限度というわけではありません。アルコールへの適性は人によって違います。数値次第で一概に禁酒ということではなく、一人ひとりの性格や生活環境にもできる限り配慮しながら、その人に合ったお酒との付き合い方・減らし方・やめ方を一緒に探っていくことができるのです。

 まだアルコール性慢性肝炎と診断されている間であれば、飲酒習慣の改善でツルツルのきれいな肝臓に完全に戻すことができます。しかし肝硬変へと進行してしまうと、もう元に戻すことはできません。そうならないための飲酒量や頻度を見つけることが大切です。

肝臓は専門医でないと正しい判断が難しい臓器

 また、飲酒する人の肝機能が悪いとお酒のせいにされてしまいがちですが、「ウイルス性肝炎」や「自己免疫性肝炎」など、治療を要する肝疾患が隠れていることもあります。きちんと精密検査を行った上で、定期的な検査で経過を観察し、「一滴も飲めない肝臓」になる日が来ないようにしていくことが重要です。

 医学の進歩により、腎臓が弱っても人工透析で生命維持は可能になっていますが、肝臓の代わりになる治療は未だに開発されていません。それほど複雑で大きな役割を担う肝臓。できるだけ長く大切にしたいですよね。もしも健康診断などで肝臓の数値が基準値を超えていれば、自覚症状がなくても一度は肝臓専門医に相談しましょう。

こんなときはすぐ相談を!

 お勧めしたいのが、「アルコール体質検査」。アジア人は欧米やアフリカ系人種と違い「アルコール分解作用が活発でない体質」が多いのですが、この検査で酒の分解が早い、残りやすい、飲めないなどが判り「飲み方」の対策ができます(自費)。検査は医師へ相談してください。

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「こんなとき、だれに相談すればいい?」
気になる病気や症例を専門医がアドバイスします。

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