数年前の話です。バイト先で仲良くなったMさんが結婚する事になり、披露宴に参加することになりました。滞りなく進む結婚式で、新郎Mさんの友人達の余興が始まった瞬間、会場内の空気が一変したドン引き体験談です。
バイトの先輩の結婚式
大学生時代に、某ファミレスで接客のアルバイトをしていました。その店にいた入社3年目のMさんは、明るく楽しいキャラクターでスタッフやお客さんからも大人気。そのMさんが結婚する事になり、披露宴に招待された私たちは、当日をとても楽しみにしていました。
披露宴は滞りなく進み、新郎新婦のご友人による余興タイムに。
「新郎側は、大学時代同じラグビー部だったご友人による余興です」というアナウンスが入り、会場が暗くなりました。湧き上がる拍手の中、会場前方にスポットライトが当てられ、みんなが注目しました。
余興が始まる
そこにはガタイのいい男性たちが5、6人、堂々と立っていました。ふんどし一丁で。
「新郎新婦の~門出を祝って!」 中心に立っていた男性が大きな声を張り上げて、それに合わせて全員中腰に。手を前後に波状にして、掛け声をかけながらその動きを繰り返します。
「声が小さい!」と中心の男性が叫ぶと、掛け声も動きも更に大きくなります。 静まり返った暗い会場内には、スポットライトに照らされたふんどし一丁の筋骨隆々の男性たちの野太い掛け声だけがこだまします。
ただ、同じ掛け声と動きを繰り返すふんどし姿の男性たちの異様な行動に、私はどう反応して良いのか分かりません。隣に座っていたアルバイト仲間たちも、ポカーンと見つめています。
刺激が強すぎたのか、小さなお子様を連れてこっそり会場を出るお母さんの姿も。
「おっと! これは、新郎の出身大学で行っている応援スタイルです!」 司会者の声もむなしく、会場内は何の反応もありません。拍手も歓声もおこることなく、異様な余興は続きます。
ついには新郎Mさんも!
ついには、ひな壇にいた新郎Mさんも加わり、上半身を勢いよく脱ぎ、同じ動きを繰り返します。 余興に加わったMさんは笑顔で、
「さあ! ご一緒されたい方はぜひ前へ!」と会場へ向かって呼びかけました。
すると、会場が少しずつざわつきはじめ、来賓の中からぽつりぽつりと男性が加わっていきました。男性陣は15人ほどの集団になり、より掛け声も動きも大きくなりました。
Mさんはおもむろに動きを止めて、腕を後ろに回して、胸を張って大きく息を吸い込みました。 そのまま会場内に響き渡る声で
「〇〇学部~〇田М男!」と、大学時代に所属していた自分の学部と、名前を叫んで自己紹介をしました。 同時に、他の男性たちも動きや声を止めて直立不動になります。
会場内の掛け声と拍手が鳴りやみ、みんながまた前方に注目します。 Mさんの堂々とした自己紹介を受けて、そのまま、余興に飛び入りで参加した来賓の男性たちも、同じように自己紹介をしていきます。
そう、彼らはMさんと同じ大学のOBの方だったのです。 来賓者が自己紹介をすると
「よっ! 待ってました!」と会場内から声が沸き上がります。 自己紹介が終わると同時に会場内も明るくなり、会場が一体感に包まれているのが分かりました。
「わっしょい! わっしょい!」ふんどし姿の男性に肩車され、上半身裸のMさんが会場内を練り歩きます。 会場も再び異様な盛り上がりを見せ、最後は男性たちと一緒にMさんも、衣装を着直すために肩車のまま退場しました。
司会者が新婦に
「いや~素晴らしい新郎の雄姿でしたね!」とインタビューしました。 新婦は
「あんな風に、一生懸命になって人を楽しませる人だから、好きになったんです…」と可愛らしい笑顔ではにかんで答えました。
静かになった会場は、春のひだまりのようなあたたかな幸せ感に包まれました。
(ファンファン福岡一般ライター)