数年前にニュースを賑わせた電車内での出産。そのママも、臨月でいつ生まれてもおかしくないと分かってはいても、まさか電車内で陣痛が来て、そのまま破水、スピード出産になるとは想像もしていなかったでしょう。そう、妊娠・出産には、予想外の出来事がつきもの。筆者の妹は、トラブルの連続の妊娠を乗り越え、思いがけない時期に出産をしました。
「足が痛くて、出歩けない…」 その日、ランチをする予定だった妹から連絡があったのは、彼女が妊娠中期を迎えたころでした。すねのあたりに、打撲痕のような赤いあざのようなものができ、「あれ?寝ている間に打ったのかな?」と思っているうちに、どんどん下半身に赤いあざが増えてゆき、痛みを伴うようになっていました。 妊婦検診で相談をしましたが、当初は理由が分からず、妊娠中で飲める薬もないので、「なるべく安静に」と言われるばかり。妊娠中期で、まだ働いていた妹は、痛い足を引きずりながら出勤していましたが、微熱が続き、全身に広がる倦怠感のせいで仕事に集中できません。 さらに足の痛みが悪化して歩くことが難しくなり、総合病院で詳しく検査をしたところ、結節性紅斑という病気に感染していることが分かりました。原因は不明で、妊娠中に抵抗力が落ちたところに細菌やウィルスなどに感染した様子。治療法もなく1ヵ月の自宅安静、なるべく寝ているように…と診断されました。 「1ヵ月も会社を休めない!」 突然のことに驚きましたが、自分とお腹の赤ちゃんを守るためには致し方ありません。上司に相談をして、翌日から仕事を休むことになりました。 足の関節が痛み、トイレへ行くのもはっていくような状態。もちろん、立って食事の準備をすることもできず、旦那さんに買ってきてもらったコンビニ飯をもそもそと食べるほかありません。 「酷いつわりが終わったと思ったら…総合病院でも『妊婦さんで結節性紅斑なんて珍しいね。歩くのが辛ければ、車いすで移動することもできるからね』と言われるような病気にかかるなんて…」 妹の自宅へ手助けに行くと、疲れ果てた妹が寝込んでいました。1ヵ月の自宅安静を乗り越え、数ヵ月経ってようやく症状が落ち着き、いよいよ出産間近となったある日のこと。 妊婦検診をした先生が思いがけないことを言いました。
「通常、赤ちゃんの頭は骨盤の内側に入っているのだけれど、この子は骨盤の上に頭が乗っているね。母胎が小柄で、骨盤が狭いからかな。このままでは、子供の頭が産道を通る可能性はないから、絶対に経膣出産はできないと思うけれど、どうする?」 どうする?と言われても、突然すぎてどうしたらいいのか分かりません。これまでの検診で、逆子でもなく、1〜2週間後には自然に陣痛がきて、自然分娩をすると思っていたのです。 「自然分娩ができないのなら、帝王切開になりますか?」と尋ねると、先生は頷きながら「今日このまま入院をして、明日、帝王切開で出産をしましょう」と言いました。心の準備ができず、動揺しながらもそのまま入院することになりました。 その日は、暮れも押し迫った12月末日。妊娠・出産は予想外の出来事がつきもの…とはいえ、これほど急に出産するとは想像もしていませんでした。 こうして入院支度もままならない状態で迎えた出産でしたが、元気な赤ちゃんを授かることができたのです。
赤ちゃんを抱いて嬉しそうな妹でしたが、唯一心残りなことがありました。 それは、お節料理。 もともと出産予定日は1月上旬だったため、臨月の体でお節作りに励むなんて無理をせず、高級料亭のお節を予約していました。 ところが突然、帝王切開での出産になってしまったので、お正月は病院で過ごすことに。さらに自然分娩なら、産後も普通の食事ができるのでお節料理を差し入れしてもらって、病室で食べることもできたでしょう。 ところが帝王切開の場合、入院中はお粥からはじまりまり、徐々に普通食に戻していくため、お節料理を食べることができません。 せっかくの豪華なお節料理に未練を残しながらも、病院で元旦を迎えました。
その日の朝、入院食を配膳してくれるおばちゃんは、「あけましておめでとうございます。今年は家族も増えて、よい年になるわね」と優しい言葉をかけてくれながら、次々と料理の皿を並べてくれました。 塩気のないお粥1杯に、お麩の煮物と、花の形に切り抜かれたニンジンが1個ずつ、そして田作り(小魚の佃煮)3本… 無理にお節風にしてあるところが、余計にもの悲しさを誘います。配膳のおばちゃんも、たった3本の田作りを見て「これじゃネコの餌みたいよね…」と苦笑する始末。 配膳のおばちゃんの素直すぎる発言に、貧相なお節風の病院食を見て呆然としていた妹も、思わず「ププッ」と吹き出してしまいました。笑うと帝王切開の傷が痛み、「プププッ…いてててっ…」と涙がにじむほど、笑ってしまったそうです。 このように妊娠中も、出産直後もトラブルだらけの妹でしたが、今は元気に子育て中です。そして正月が来るたびに、「あの時の貧相なお節風病院食を思い出すと、未だに笑いが止まらなくなるの」と、思い出し笑いをしています。 (ファンファン福岡一般ライター)
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