出産前後で、大きく価値観が変わる体のパーツといえば、【おっぱい】ではないでしょうか。 産前は、大きな胸や形の良い胸がもてはやされていたのに、産後は、しっかり母乳が出るか、乳首は赤ちゃんが吸いやすい形をしているか、そんなことが重要になってきます。筆者も、独身時代は、少しでも胸を大きく見せようと、ブラにパッドをしのばせたり、寄せてあげていたのが、まるで前世の記憶のよう…。母乳さえ出れば、それで良い…。そんな気持ちでいました。
そんな【おっぱい】で、義母と一触即発の事態になりかけた友人がいました。その修羅場から救い出してくれたのは、意外な人物だったのです。
スレンダー体型のAさん

小柄でスレンダーなAさんとは、お互い胸がぺたんこだった時期からの友人です。思春期によく食べて、よく眠り、ふくふくと太った筆者と違い、Aさんはいつまでも華奢で、少女のような様子が魅力でした。
20代後半で恋愛結婚をした末、子どもを授かった彼女でしたが、それは波乱の幕開けでした。妊娠初期は酷い悪阻で苦しみ、妊娠中にも関わらず、体重が減少。げっそりとやせ細り、ついに1週間入院をして、点滴で強制的に栄養をとるように指導されました。
退院後も、大きくなった子宮が胃を圧迫して食欲が湧きません。子どものために、なんとか食事をとっていましたが、臨月になってもおなか以外はスレンダーなまま。臨月になっても、妊娠前の体重から3キロしか増えていませんでした。
それでも、生まれてきた赤ちゃんは健康そのもの。ママから栄養をしっかりもらって、ふくふく艶々で可愛らしく、Aさんは「この子のために、たくさんおっぱいを出して、大きく大きく育てないと!」と強く思ったそうです。
筆者も子どもを産むまで知らなかったのですが、子どもが生まれたからといって、母乳が自動的に出るわけではありません。おっぱいが出やすくなるようにマッサージをして、赤ちゃんに吸ってもらうことで、オキシトシンというホルモンの働きが活発になり、乳腺が開いて母乳が出るようになるのです。
Aさんが出産した病院では、出産直後から3日間は母子分離だと決まっています。ママは病室に、赤ちゃんは新生児室にいるため、一日に何回も授乳室に行って授乳をします。
授乳室にいるのは、みんな新米のママばかりなのですが、なかには経産婦もいて、出産直後から母乳をあげているママもいます。一方、Aさんはまだ母乳が一滴も出ません。
さらにAさんを焦らせていたのが、おっぱいの大きさでした。というのも、Aさんはもともと華奢で、胸に自信なんてありません。妊娠中も悪阻で苦しみ、ほとんど体重が増えなかったせいか、胸も少しだけ成長してAカップくらいでした。
授乳室を見回すと、スイカやメロンのように大きな胸が、目に入ってきます。Aさんは、そこにいるママ達の中で、自分の胸を一番小さく感じて、焦りました。 「私の胸が、小さくて駄目なおっぱいで、母乳が出なかったらどうしよう…」
母乳が出なくて悩んでいると…

赤ちゃんを抱き上げ、その小さな口に乳首を含ませても、ちっとも母乳が出てこないので、赤ちゃんは、顔を真っ赤にして泣いています。
母乳が出ない・・・ 不安で押しつぶされそうになりながら、看護師さんに相談をすると、
「母乳が出るようにお手伝いしますよ! あとで病室に伺いますので、乳腺を刺激して、貫通を促すマッサージをしましょう!」と声をかけてくれました。
「あの助産師さんが、マッサージしてくれたら、きっと母乳が出る!」 不安と期待が入り交じりながら病室に戻ると、旦那と義母が来ていました。
その日は、出産から3日後。その日から新生児室にいた赤ちゃんは病室にやってきて、ママのベッドの横でコット(ベビーベッド)に寝かされます。 すやすやと眠る初孫を見て、大興奮の義母。たくさん写真を撮り、起きてふにゃふにゃと愚図る孫を抱いて、満足そうです。
一方、Aさんは「もうすぐ授乳の時間だから、そろそろ帰ってくれないかな…」と思っていましたが、義母は孫と遊んでいます。
ついにおっぱいを求めて、あぁーん、あぁーんと赤ちゃんが泣き始めたちょうどその時、病室の扉がノックされ、さきほど励ましてくれた看護師さんが、ひょこっと顔を見せて
「Aさん、そろそろ授乳の時間ですよ。マッサージしましょうか」と声をかけてくれました。
Aさんは看護師さんの顔を見たら、力が湧いてきて
「あの・・・ これから授乳なので、すみません…」と、義母に退室を促しました。ところが、義母はもっと孫の様子を見ていたいようで、席を外す気配がありません。 授乳ケープがないため、仕方なく、洋服で胸を隠すようにして、授乳をしようと試みました。ところが、顔にかかる洋服が嫌なのか、赤ちゃんは愚図って、乳首に吸い付いてもくれません。
その時、義母が言い放ちました。
義母を撃退してくれたのは?!

「そんな小さな胸で、母乳が出るの?」
自分の胸が小さいから、母乳が出ないのかも… と感じていた不安を、義母に指摘されて、思わず涙がこぼれてしまいそうになります。そんなAさんを見て、看護師さんは助け船を出してくれました。
「まだお母さんになったばかりですもの。赤ちゃんだって、はじめから上手におっぱいを吸える子なんていません! さあ、母乳が出やすくなるようにマッサージをするので、お部屋から出てくださいね」と、にこやかに義母と旦那を病室から追い立ててくれました。
「大丈夫よ。ちゃんとおっぱいが出るように一緒にがんばりましょう! もともとのおっぱいの大きさと母乳の量には、関係ないんだから!」
その優しい言葉にAさんは、泣きながらマッサージを受けたそうです。その後、マッサージの効果もあり、赤ちゃんがむせかえるほどの母乳が出るようになり、Aさんの子どもも、すくすくと大きく成長しています。
(ファンファン福岡一般ライター)


